彼女の話 ページ36
轟side
俺は万能の話を静かに聞いていた。
｢うーん、詳しくは話せないんだけどさ。私、ある奴が憎いんだ。否定したくてさ｣
俺は思わず目を見開いた。
こいつのことは良く知らねぇが、そんな人物がいるようには見えなかった。
｢ハハ...意外だった？｣
どうやら顔に思いっきり出ていたようだ。
｢...きっとアイツは、私のこと、今もテレビで見ているはず。気持ち悪い、吐き気がする｣
俺は、体が硬直するのが分かった。
それほど、今の万能の目には憎しみが映っていた。
｢本当に誰にも話したこと無いんだよ？こんな話。
私、デクとかっちゃん以外、仲良くしたいとか思ってないから余計に。
...けど、何でかな。轟くんにはすんなり話せちゃう。不思議だよね、デクやかっちゃんには言えないくせに。やっぱ、二人にこんな感情を知ってほしくないってのが大きいんだろうね｣
そう言う万能の表情は、フードに隠れていて分からない。
｢私はね、オールマイトみたいなヒーローになりたい。そして、デクとかっちゃんの隣に立って、ヒーローをしていくのが私の夢なの｣
顔を上げて万能は微笑んだ。
｢けど、それは建前｣
一瞬にして柔らかい表情から、無表情に戻った。まるで、すべての感情が抜け落ちたかのように。
｢私がヒーローになりたいのは結局の話、保険なんだよ｣
｢保険...？｣
思わず首をかしげる。
｢私が、ヒーローとして一生を生きて、まっとうな世の中を生きていく保証。それが欲しいんだよ、私は｣
ギリッと歯を食いしばりながら、そう言った。
｢もちろん、オールマイトのようなヒーローにデクたちとなりたいのも本心だよ？
でも、私が一番に求めてるのは違うって、今日気づいちゃった｣
万能は、あくまで淡々と話す。
｢皆みたいに、夢の為なんかじゃない。私は、今ある幸せに安心していたい。死ぬまで、ずっと。
...そんな風に考えている自分が醜くて、大嫌いなんだよ。
こんな自分が許せない。
だから、デクやかっちゃんにこんなにも醜い私を知ってほしくない。
こんなんじゃ、ダメなのに。
私なんて......
居なくなればいいのに、って思っちゃう｣
そう話す万能が、今にも壊れてしまいそうなほどに、脆く見えた。
だからだろうか。
｢そうすれば、私も少しは楽になれるんじゃないかって、だから...ｯ！？
と、轟くん...？？｣
俺は、衝動的に万能の腕を引き寄せて、抱き締めた。
俺はこいつを、守りたいと思った。
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作者名：夢桜 | 作成日時：2019年3月20日 20時
