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それから、慌てて携帯を取り出してAに電話を掛けるけど、出ない。
カトクにメッセージをと思っても…なんて言う?
俺、聞いてないって?
いや、でも普通にすごい仕事じゃん。
こんななじるような言葉送れない。
おめでとう?
正直驚きすぎて祝える気持ちじゃない。
いっそ、
おめでとう、すごい仕事してるの見たけど、俺聞いてない、
って送る?
って、めちゃくちゃムカついてるじゃん、この文章の向こうの俺。
結局、《会いたい》としか送れなかった。
すると、しばらく経ってから、
《私も》
《会いたい》
とメッセージが来たので、すぐに通話を押した。
ワンコールで出たAに、さっきの仕事の話をしようとして口を開く。
…でも、なんて切り出したら良いか分からない。
『ユンギ、今どこ?』
後ろ、騒がしいね、なんて言うけど、電話した方の俺がずっと無言なのを問い返されない違和感を、なんて表現したらいいか。
会いたい。
ほんと、今すぐ抱きしめたい。
今どこって?
そりゃあ…
「…ベルリン」
バカ正直に答えてから、そのあまりの距離の遠さに愕然とした。
『ドイツかぁ』
気持ち悪い。
Aの、
違和感がひどい。
顔を見て話せば、
さっきのことも、
なんだそんなことだったのか、
なんて笑って安心できるはずなのに、
できない。
『遠いよ、ユンギ』
淡々とした口調に、気持ちばっかり焦って、言葉にならない。
いつものAはどんな風に話してたっけ、俺は、どうやって返事をしていたっけ。
『会いたいって、言ってくれたのにそばに行けなくて、ごめんね』
待ってくれ。
どうして俺は、
好きな女の子に、
こんな寂しい事を言わせてるんだ。
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作者名:フネ55 | 作成日時:2022年12月1日 19時