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さて持ち場に戻るかと、意識を仕事に戻したところで、トントン、と肩をたたかれて振り返る。

メイクスタッフのサン・アリンだった。


この職場で唯一の女性の友達で、同い年ということもあって親身にしてくれている。


口をぱくぱくさせて何か言っているが、笑ってしまうほど何も聞こえない。

私は手持ちのメモ用のノートを渡して、描くようにうながした。




AR《今日の打ち上げどうする?》





私はつくろう間もなく、思わず顔をしかめてしまった。

そんな私を見て、アリンが文句を言うようにぷくっと頬を膨らませる。

その仕草は女性から見ても愛らしくかわいい。

おまけにお化粧もばっちり決まっているし、メイクスタッフがじゃなくてヨジャアイドルかってくらい、アリンは本当にかわいい。


化粧してもとめどなく流れる汗で落ちてしまうような大道具スタッフの私は、もとからスッピンだし、大道具は尖った物に溢れているので、引っ掛けたりの万が一を考えて体のラインが出るような服も着ない。

楽だからと言う理由で伸ばしっぱなし髪の一つ結びが、かろうじて女性といカテゴリーに入れてもらっているような、いないような。


でも、そんな私にアリンは優しい。



AR「女の子なんだから、おしゃれしようよ?」



そう言って、私の無造作ヘアをどの服色にも似合う明るいカラーリングをしくれた。

無かった前髪を作り眉を整えて、化粧をしなくても女の子でいられる方法があることを教えてくれた。



そして少し見れるようになった私に、次はこう言った。






AR「女の子なんだから、恋、しようよ!」






言われた時の私、口を馬鹿みたいに開けて、




『はあ?』




としか返せなかったのは、許して欲しい。

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作者名:フネ55 | 作成日時:2022年12月7日 14時

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