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ぶっきらぼうだけど優しい声に、私は一気に意識が引き戻されたが、すぐに眩暈に襲われ頭をかかえた。
「ちょっと！不用意に近付くなって！サセンだったらどうすんの！なんでこのエレベーターに乗ってんの？」
「ヒョン、この子スタッフTシャツ着てます」
声は二人分、どちらも男性だ。
一人は混乱して、少し怒ったような声。
怒っている人を宥めるように話した人が、また私に声をかけた。
「あの、ほんと…えーっと、動けます？ここ、専用のエレベーターだから、ちょっと移動しましょう？」
そっと、躊躇いがちに二の腕を掴まれ、引き起こされる。
足に力が入らなくて、そのまま前のめりに倒れそうになるのを慌てたように抱き止められた。
ふわりと香ったその人の香りが、心地よくて思わず縋り付く。
「ちょ、待って！あー、もうヒョンちょっと手伝って」
「え、やだ。刺されたらどうすんの」
「こんなふにゃふにゃな人が何したって俺らに敵います？」
「その自信過剰、いつか痛い目見るから」
ぶつくさ言いながら、両方から肩を抱かれて歩かされた。
ソファらしい椅子に横たえられて、はあ、と吐息を吐いた。
やっと楽になって、思わず頬が緩む。
「なに、可愛いじゃん、この子」
「カードキーがありましたよ、やっぱりここに泊まってるスタッフですよ」
「何を人のカバン勝手に漁ってるのぉ！怖い子！」
「身分証は無いですね…免許証とかも…無い。あれ？カードキーは二枚あるな…まあいいか。うん、カメラも、ナイフも危険物も無いですよ！ヒョン！サセンの可能性は低いですよ！良かったですね！」
「ほんと！良かった！って、ちがうでしょ！お前手慣れてない？なんでそんなサクサク色々探せるの？」
声は鮮明に聞こえるのに、指先ひとつ動かせない。
この声、聞いたことがある気がする。
…良く知ってる人たちな気がする。
でもアルコールで低下した思考力で、名前も顔も思い出せない。
後になって思い返したら、あの日、VIPフロアに泊まっている人たちなんて誰だかわからないわけないんだけど。
その時は、本当に、わからなかった。
お酒ってほんとこわい。
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作者名：フネ55
| 作成日時：2022年12月7日 14時
