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では、フライトがあるので、と、まだ何か言いたげな様子のセジンさんに言い切るように断って、一方的に電話を切ってしまった。
セジンさんは年上で、私の立場からすれば本当なら大変失礼な行為だ。
けれど、今の条件なら対等な関係だったし、実際私はも機内へと急ぐ時間になっていた。
電話の向こうに、いたであろうその人のことが、ちらっと頭をよぎる。
もう会うことはないであろう彼。
- これ、俺が使っても良い？ -
脳内で再生された声に、思わずぶるりと震えた。
はあ、と溢れた吐息は、体に焼きついた感覚を思い出したせいでひどく甘い。
『できるだけ早く、忘れよう』
自分に言い聞かせるように呟いた言葉は、我ながら弱々しく、悲しげだった。
体だけでも愛されるって、幸せだって言ったじゃん、アリン。
私、全然幸せじゃない。
違う。
私が、
自分で
私を不幸にしたんだ。
鍵をかけたはずのドアが、ゆっくりと内側から開かれる。
私の中の女の子が、子供みたいに泣いている。
だから言ったじゃない、
部屋にもどれって。
会って話をしてって。
本当にそうだ。
何かが変わることを怖がったばっかりに、私は私の気持ちをなかったことにしてしまった。
アリン、
ほんと、
言う通りだったよ。
男の人に愛されるって、すごく素敵なことだったんだね。
だって私は、
たった一晩で、
顔も、
名前も知らないその人を、
こんなにも、好きになってしまったんだから。
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作者名：フネ55
| 作成日時：2022年12月7日 14時
