おひとのといき〜OHITONOTOIKI〜【合作】

思いが重い ページ11

あれからどれくらい経ったのだろうか。

彼女に振られた現実が受け入れられず繰り返し肌に突き刺したカッターは床に転がっている。
それを拾い上げる気力も、傷の処置をする気も、今の僕には微塵もない。



ずきりと痛む頭を抑えながら、脳裏をよぎる彼女の横顔に胸を焦がす。その美しい唇への口付けは、どれだけの男ならば許されるのだろうか。

俳優負けの美貌があれば良いのだろうか。
秀才で金持ちならば良いのだろうか。
彼女が求める者は、僕じゃ駄目なのだろうか。



ああ、まただ。自己嫌悪で満たされた僕には、到底彼女を手に入れるビジョンが見えない。
吐息をこぼす彼女の横でその吐息を密かに吸い、そして肺に溢れる彼女の吐息で、僕が生きていく。

「……無理だ。今の僕には無理なんだ」

絶望の言葉が無意識に紡がれる。どうしたら彼女に届く。どうしたら彼女に愛してもらえる？



ぐるぐると平行線の思考を繰り返すなかで、僕はやっと答えに至った。それは僕の最善策で、僕にとっても彼女にとっても、幸福を歩める唯一の方法。

僕と君が愛し合える幸せな世界を二人で作っていくんだ！でもやっぱり、まずは男の僕が頑張らなくちゃだよね…！待ってて、絶対に幸せにするからね

そう思えば重かった体が嘘のように軽くなって、心がふわふわと浮かれてきた。やっと見つけた、僕と君のビジョン。叶えなくちゃ、やらなくちゃ…！





僕は傷口が開くのなんてお構い無しに、包丁をそそくさと新聞紙で包んでそっと鞄の中にしまった。


「必ず見つけ出して…処分しなきゃ」


彼女の吐息は、僕だけのものだから

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