普通の ページ12
――――――――
――――――
――午後8時、屯所の休憩所。……といっても冬季限定の方ではなく年中開放中である自動販売機置き場の方。
「――今晩も冷えますね」
そこでいつもの通り掃除をしていたあたしがそんな声を発したのは、煙草を買いに来たらしき土方さんに向かってであった。
「そうだな。……仕事するならせめて暖けェとこでやれ」
「暖かいとこに重点的に埃が集まってくれでもしてたらいいんですけどね」
どうにもちょっと寒くてちょっと人気がないくらいが汚れもゴミも見落としやすいらしいんです、なんて肩をすくめる。
土方さんはというと片手に小銭を握ったまま自動販売機ではなくあたしの方へと向き直っていて、どうやら立ち話に興じてくれるらしい。あたしも仕事の手を止め着物の汚れを払った。
静かなこの屯所内には誰かが共用スペースで観ているらしきテレビの音が響いていた。新年も始まって既に10日が経つというのに未だお正月特番なんてものがやっているよう。
「――なーんか、わからなくなりますね」
「わからなく?」
「世間じゃ正月だなんだと騒がれていても、屯所の中は変わらないじゃないですか」
正月気分を味わえるとしたら大晦日から元日にかけてくらいだ。「つくづく特殊な職場ですよ」と笑えば、土方さんはこちらへなんとも言えない視線を向けた。
「……普通の女なら逃げ出すぞ」
「失礼なんだから。働き手を気遣ってくれる上司はいるし楽しくやってます。……それに」
少しだけ、土方さんから目をそらす。恥ずかしいけど、笑みを浮かべて。
「普通の女なら、惚れてくれなかったでしょ?」
大胆すぎる言葉を放ったのちそおっと彼を窺った。呆けたような顔をしていた土方さんは、数秒をおいてふっと笑う。
「道理だ」
ったく敵わねェ、なんて呆れ混じりに言う彼であるけれど、あたしだって敵わないんだからお互い様だ。
479人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ユイ - 完結おめでとうございます。不器用なりにも優しさを見せてくれる土方さんにキュンキュンされっぱなしでした、最高です! (2019年10月19日 10時) (レス) id: 7837a845b7 (このIDを非表示/違反報告)
麗桜 - 完結おめでとうございます。とーってもおもしろかったです! (2019年8月10日 18時) (レス) id: a12faa1c0b (このIDを非表示/違反報告)
鳥雫(プロフ) - 良かったですよおおおおおおおお!!!ミツバさんを入れつつ夢主とも恋愛させる、ってのが本当良かったです!!これからも応援してます!! (2018年1月15日 1時) (レス) id: 40fe2f910d (このIDを非表示/違反報告)
ありす - 完結おめでとう!面白かったです! (2017年1月29日 15時) (レス) id: f707c0d1ab (このIDを非表示/違反報告)
林檎(プロフ) - 完結おめでとうございます!いつも楽しく読んでもらってました!新作頑張ってください(*^◯^*) (2016年11月13日 12時) (レス) id: 6c50a9e769 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:中村 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakamura_/
作成日時:2016年11月5日 23時