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第四十話 ページ42

太宰さんは笑って一升瓶を揺らした。私は仕方なく太宰さんの横にちょこんと座り、空いた猪口に日本酒を注いだ。其の様子をまじまじと見詰める太宰さんは不意に顔を寄せて私の頬を指先で撫でる。私は咄嗟に後退った。

「待って、近いですやめて下さい。明日も仕事なんでしょう……今日は此れ位に──」

太宰さんの手を振り払うと視界が逆転した。一升瓶が手から離れ床に転がる。
私の視界には太宰さんの優れた容貌でいっぱいだった。太宰さんに押し倒されたのだと気付けば抵抗しようと彼の肩を掴む。然し相手は成人男性、私の腕を軽々と剥がすと床に縫い付けられてしまった。

「ねえ、Aちゃん。何か思い出さない?」

「何も思い出しません。あの、本当にこういうのは好きな人とする事なので……」

「好きな人と、ねえ」

太宰さんは表情を変えずに呟く。すると私の寝巻きに細い指を滑り込ませて下着に触れた。

「ほ、本気ですか太宰さん!」

「私はいつだって本気だよ」

嗚呼、駄目だ。何を云っても聞いてくれない。
動悸が激しくなる。心臓が拍動する度に息苦しくなり呼吸が荒くなる。視界が霞むと太宰さんの姿が誰かと重ね合わさった。

────あれ、誰だっけ












「中也さん、水を」

「あン?要らねえよ水なんか」

吐き捨てるように云う中也はワイングラスを片手に突っ伏した。芥川はしゅんと肩を下げて水を並々注いだグラスを机の隅に置く。

数時間前、芥川は中也宅に呼び出され断ったのだが「幹部命令」と云われてしまえば仕方ない。芥川は渋々中也が住むタワーマンションに足を運んだ。
部屋に上がり込みリビングに行けば、葡萄酒を開けてワイングラスを揺らす中也の姿が。立ち上がり芥川を迎える中也の足取りはふらつき、頬は赤く染まり目は据わっていた。
部屋を見渡せば所々に放置された女物のマグカップや服の数々。芥川は亡くした彼女の物だろうと同情の眼差しを中也に向けた。

──そして現在に至る。

「今日な、Aに似た女を見付けたんだ」

中也は顔を上げるとまた酒を仰いだ。自棄酒だ…と芥川は小さく溜息を吐き取り敢えず彼の次の言葉を待つ。

「Aにそっくりだったんだ。声も、顔も。だが記憶だけが無かった」

消え入りそうな声で中也は云った。相当辛かったのだろう、固めた拳も震えている。

「覚悟はしていたんだ。だが実際その局面に遭遇したら恐くて逃げちまった」

「中也さん…」

中也は独り言のように呟き力無く笑った。

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- 時間があれば読み返しています!!とても魅力的な作品を読ませていただきました!! (2022年3月23日 22時) (レス) id: 9bee9bd17c (このIDを非表示/違反報告)
はるなか(プロフ) - 梨桜さん» ありがとうございます!格好良さを全面に出したかったので良かったです〜!新作も宜しくお願いします! (2022年1月22日 13時) (レス) id: 379cc49933 (このIDを非表示/違反報告)
はるなか(プロフ) - 引きこもりちゃんさん» 更新の度コメントくださってありがとうございました!また機会があったら読み返してあげてください(〃'▽'〃) (2022年1月22日 13時) (レス) id: 379cc49933 (このIDを非表示/違反報告)
梨桜 - 完結おめでとうございます!最後までクッソ格好よかったですね…新作も楽しみにしています!! (2022年1月22日 10時) (レス) @page50 id: 76e4dc31cc (このIDを非表示/違反報告)
引きこもりちゃん - 完結おめでとうございます!この話凄い好きです。お疲れ様でした。 (2022年1月22日 0時) (レス) @page50 id: 81a3cc2368 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:はるなか | 作成日時:2021年11月26日 22時

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