第三十八話 ページ40
「武装探偵社?」
「彼処なら手前の異能力を私利私欲に遣う奴は居ねえだろ」
「中原さん、優しいんですね。こんな記憶も曖昧の初めて会った私に此処までしてくれるなんて」
Aはグラスを持つ手を震わせていた。相当不安だったのだろう、瞳にはじんわりと大粒の涙を溜めていた。
嗚呼、出来得るのなら此の儘抱き締めたい。震える身体を慰めるように背中を撫でてやりたい。
「つい最近大切にしていた女を其れで亡くした。御前に似た可愛らしくて柔らかい女だったよ」
「…そう、なんですね。中原さんに愛されていた女性はきっと素敵な方なんでしょう」
「まァな。初対面の奴に昔話なんてされても困るだろ、悪かったな」
俺は珈琲を飲み干すと席から立ち上がった。Aも続いて俺の後に着いてくる。
二人分の会計を済ませた後、携帯端末を取り出し武装探偵社で唯一連絡先を知っている彼奴にメールを送った。
彼奴に頼るなんざ悔しくて仕方ねえが
「やあ中也。マフィアが探偵社に依頼だなんて森さんが知ったら────あれ、その子」
探偵社の扉を開いた長身蓬髪の男性はまるで私の事を前から知っているような顔をした。中原さんと私の顔を交互に見て「嗚呼、成る程ね」と整った顔で笑みを浮かべる。
「首領には黙っておいて呉れ。太宰、此奴の事は頼んだ」
そう告げると中原さんは私の背中を押して、太宰と呼んだ男性の前に預けた。
外套を翻して階段を降りていく背中を見送る。
「爆弾を抱えて訪問された気分だ。君、名前は?」
「小野Aです」
「同姓同名に乘り移るなんてね。余程前世の君は中也に執着して生まれ変わったのか」
太宰さんの云うことが理解出来ず首を傾げる。
暫し黙考していた太宰さんは私の様子に気付くとまた笑みを浮かべた。
「私は太宰治だ。探偵社にようこそ。君の身の安全を確保して貰いたいって依頼を受けたのだけど、依頼を永遠に受ける訳にはいかないからねえ。取り敢えずAちゃん、今日泊まる宿はあるかい?」
「あの、非常に云い難いのですが……私、中原さんと出会う前迄の記憶がなくて。家も分からないんです」
「ふむふむ、そっかあ。其れは困ったねえ」
太宰さんは顎に細い指を添えて俯く。「そうだ!」と何か閃いた顔で此方を見ると太宰さんは綺麗な顔をずいっと近付けてこう云った。
「私の家に泊まろう!」
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椛 - 時間があれば読み返しています!!とても魅力的な作品を読ませていただきました!! (2022年3月23日 22時) (レス) id: 9bee9bd17c (このIDを非表示/違反報告)
はるなか(プロフ) - 梨桜さん» ありがとうございます!格好良さを全面に出したかったので良かったです〜!新作も宜しくお願いします! (2022年1月22日 13時) (レス) id: 379cc49933 (このIDを非表示/違反報告)
はるなか(プロフ) - 引きこもりちゃんさん» 更新の度コメントくださってありがとうございました!また機会があったら読み返してあげてください(〃'▽'〃) (2022年1月22日 13時) (レス) id: 379cc49933 (このIDを非表示/違反報告)
梨桜 - 完結おめでとうございます!最後までクッソ格好よかったですね…新作も楽しみにしています!! (2022年1月22日 10時) (レス) @page50 id: 76e4dc31cc (このIDを非表示/違反報告)
引きこもりちゃん - 完結おめでとうございます!この話凄い好きです。お疲れ様でした。 (2022年1月22日 0時) (レス) @page50 id: 81a3cc2368 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はるなか | 作成日時:2021年11月26日 22時