18 Cits ページ20
確か、姉ちゃんが言っていたその人は大学生だったはずだ。それに服がいつも一緒で…………
チラッと彼女に視線を移して目に映ったのは、ダボダボのオーバーサイズの男物の服。一度も染めた事の無いような黒髪はよく見れば所々不揃いだ。
………彼女は弟の服を着ている？
「………あの、じゃあ、その服って、」
『……ふふっ、似合わないですよね？』
「………………」
『弟が母を欺く為に一生懸命稼いだバイトのお金で買ってくれた私の服です』
「……………」
『私のせいで、弟は大学の友達と遊びにも行けないし、自分の欲しい物も買えない。だってそのお金は私への食事や私の日用品に消えていくんだから』
「……………」
あぁ、服は弟からの物だったんだ。そして、その心優しい弟はこの子の為に、この子を生かす為に自分を犠牲にしているんだ
「………良い子、だね。弟くん、」
『……はい、自慢の弟です。』
「……………」
『私は、物心がつく時にはもう弟に助け続けられて生きてきた。』
「……………」
『……だから、今度は私があの子に恩返しをしたい。』
「……………」
『そんな日が来るといいなぁ』
顔を上げた彼女の顔は儚さの中に一筋の希望を見つけた、そんな顔をしている。
恩返しをしたい？そんな日が来るといい？
…………なら、すぐにでもしてあげられる事は出来るんじゃないの？
十字路についてここを左に曲がれば姉ちゃんの家だ。………でも、その前に、
陶器のような白い彼女の腕をグッと掴むと少し目を開いて俺を見た彼女は驚いたような顔をしている
「姉ちゃん家に寄る前に、少しだけ俺ん家寄ってかない？」
『は……はい？』
「ほらっ！急がなきゃ！走って！」
『えっ、ちょっ！えっ！？』
「はははっ！ほら、体育だよ、体育っ！！」
スーツを着たいい大人とダボダボな服を着て笑いながら走ってる俺達はどんな風に見えてるんだろう？
息を吐きながら楽しそうに走る彼女の姿はあどけなく見えて小学生のような無邪気さに少しだけ嬉しくなった
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作者名：ノルン
| 作成日時：2024年2月11日 23時
