16 Cits ページ18
俺、そんな難しい事言ったっけ？
俺の言った事に戸惑うような反応をした彼女に思わず苦笑いが漏れてしまった
何？実はめっちゃくちゃ馬鹿な感じ？
「東西南北、忘れちゃった？」
『あ、えと………』
俺がそう聞くと下を向いて固まってしまった彼女に足を止めた。東西南北なんか忘れる奴はいくらでもいるだろ。何なら俺は北と南しか区別ついてないよ
確か、西が左だっけ？……あれ？右だったかな？北は上で南は下だろ？それは分かるんだよ。ただいっつも西と東がごっちゃごちゃになって分かんなくなるんだよなぁ〜
「……あれ？西が右？左だっけ？」
『………分かりません』
「分かんないよなぁ〜、どっちか忘れちゃうよね」
『……いえ、私の場合は忘れるとか、そんなのじゃなくて、』
「んー？」
微笑みながら彼女へ視線を向けると俺の顔を見て少しだけ微笑んだ。その顔はとても儚げで今にも消えてしまいそうだ。
この人は本当に存在しているのだろうか？触れれば手がすり抜けてしまいそうな程の儚げな表情に言葉を失ってしまった。
『義務教育を受けていないんです。』
「………はぁ？」
『小さい頃から学校へ行かず家のお手伝いをしていました』
「…………え、？」
『なので、私の場合は忘れたとかそんなんじゃ無くて、』
下を向いて笑った彼女に目が離せずに見つめたままいると長いまつ毛を携えたその目は少しだけ揺れている
『……何も知らないんです。その、東西南北の方向も、簡単な算数問題さえ、』
「……………」
『へへっ、困りますよね？こんな話、……すみませんっ』
耳に髪をかけながら恥ずかしそうに笑った彼女に得も言われぬ気持ちが湧き上がった瞬間思わず目を逸らしてしまった
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作者名：ノルン
| 作成日時：2024年2月11日 23時
