プロローグ ページ1
「ねぇ、帽子取ってくれない?」
絶対に嫌だ。私だと、バレるじゃないか。あなたにバレる訳にはいかないんだよ。
ハウスキーパーの副業をしている私は目の前にいる職場の副社長に目を合わせられずにいた。
『髪の毛が落ちる可能性がありますので出来ません』
「前にハウスキーパーの人に俺の大切な時計取られたんだよね。」
『それはそれは、大変な思いをなさったのですね』
「ベルヴィータって時計。限定モデルだから800万したんだよ」
『800……………』
それは本当に哀れだ。私だったらムカつきすぎてこの部屋の中の時計を全て窓から放り投げるという訳の分からない行動をするかも知れない。
『あの、まず、何故帽子なのでしょうか?』
「帽子の中に隠されてるかも知れないでしょ?」
んな訳ねーだろ。なんて言えず、一社員の私の顔なんて覚えていないだろう。
そういう気持ちもあり帽子を取った。
「じゃ、次。マスク取って」
『マ、マスクでしょうか?何故、マスク………』
「マスクの中に隠されてるかも知れないでしょ?」
んな訳ねーだろ。落ちるだろ、馬鹿かよこいつ。
いや、そんな事はいいんだよ。マスクなんて取ってしまったら確実に本職がクビになる。副業が本職になるのはごめんだ。
『申し訳ありませんが、飛沫が飛んでしまい大切なカーペットに私の唾が散布されてしまいますので、」
「ていうか、もういいから。この茶番。」
『え、』
「覚えてないの?今日うちで面談あっただろ?俺、総務部の面談したよね?」
『…………』
彼の言った通りだった。今日はうちの会社で面談があり副社長が一人一人社員の話を聞いていった。
その話をしている時点でもうほぼほぼ私の事なんてバレているだろう。終わった、詰んだ。
諦めの気持ちでマスクを取ると愉快に楽しそうに笑った彼に目は合わせられなかった。
「総務部の〜、Aさん、だったよね?」
そう言いながら近づいてきて俯いたままの私の顔を覗き込むとニッコリと笑いながら口を開いた
「うち、副業禁止だよね?」
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作者名:ノルン | 作成日時:2023年12月1日 1時