雪柱は愛欠乏症

霞の目覚め ページ22

side 時透


愛？

それってなんだっけ…

僕は、お館様の仰る意味が分からなかった。

なら、僕にも教えてよ。
記憶を失い、親も忘れた僕に、

愛を。



ーーーー

『霞の呼吸 参ノ型 霞散の飛沫』

鬼の首が、地面にゴトリと落ちる。

「任務終了。もう帰る。」

独り言のように、合同で任務に来ていたAに言う。

「待って、まだ消滅を確認していない。
　それに、あそこ、人がいる。」

「…？」

Aが指さした方をみると、確かに木の影に幼い子供が隠れているのがわかった。

「…ほっとく。どうせすぐ帰るよ。」

そう言って、帰ろうとしたが、Aは聞かずに子供の方へと歩いていった。

Aが子供に話かけると、子供は頷きAの手を握った。

「もう暗い。送っていく。」

そう言って歩き始める二人。

特に何事もなく無事に子供を送り届けると、
「ありがとう！二人共！」

子供はそう言って家へと入って行った。


「時間の無駄。」

「…ちがう。無駄じゃない。」
僕のつぶやきに、Aが反応する。

「霞柱にはどうでもいいことでも、子供からしてみたら、大変なことだったと思う。
　そんな子供を安心させることも、必要なこと。」
　

「…必要ない。そんなこと、鬼を滅する僕達に必要なことじゃない。」

子供を安心させたって何になるんだ。
僕達柱はそんな時間があるならもっと鍛練を重ねて、多くの鬼を滅するんだ。


「霞柱は、守るべき者の大切さを知らない。
　守るべき者がいれば、私達はもっと強くなれるんだ。
　何の意味も持たないまま、鬼をただ滅する剣を振るうのではなく、人を守る優しい剣を振るえる者は無限に強くなれる。」

守るべき者が入れば、無限に強く…

「無限に、強く？」

「そうだよ。人には必ず、無限の可能性がある。」

無限の可能性ーーーー

前にも僕は、同じような事を言われたことがある気がする。

「僕にもあるの？」

「当たり前。」

守るべき者、無限の可能性、

何だか、頭が少しスッキリした。

守るべき者…僕にもいるかな？
チラリとAを見る。
　

月明かりに照らされる少女。それは、儚い、という言葉で現すのが的確だろう。





…！！、わかった。

守るべき者って、言い換えたら『愛すべき者』なんだ。

そんな気がする。


『愛すべき者』…難しいな。
でも、愛ってそう言うことなんだよね？






ねぇ、A。

守っていい？

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