マイホームのpiece（かけら）～黄～ 3 (ページ37)

今日:11 hit、昨日:13 hit、合計:111,511 hit

97-2　実感　：　亮side ページ37

.
　でも、章ちゃんはこんな風に人が突然いなくなる経験は、
　両親の時以来や。

　三年前、旅行中に事故で亡くなった以来で、
　もしかしたらその時の事を思い出したのかとも思った。

　もし、そうなら可哀想な経験や。

　あの感情を……あのどう表現してもしたりないあの無常感、
　いや、喪失感に至るまでの、あのどうしようもない気持ちを、
　どうにも言いようのない深い悲しみを、
　もう一度思い起こさせたのだとしたら？

　章ちゃんの年では、本来必要のない経験やと思う。

　でもあの時ははっきりと
　『お亡くなりになりました』と告げられ、
　小さな子供でも分かったあの事実。

　それを自覚する間も与えてくれなかった
　『ご愁傷さまです』
　という当たり障りのない言葉で埋め尽くされた、あの時。

　その言葉からはどこにも逃げ場はなくて、
　どこにいても誰に会っても、
　それから逃れる術はなかった。

　損傷が激しく小さかった俺らは遺体に会わせてももらえなかった。

　でも、二つ並んだ棺の中に、
　両親が居るのだけは何となく分かった。

　ただ、それが本当に両親なのかという実感がなかっただけだ。

　今回も章ちゃんは遺体には会えてない。
　だから実感がないんや。

　その分はっきりと言われなければ確かに伝わらない。

　でも、はっきり聞かされるこっちの身になって
　看護師さんはあんな言い方になってる。

　それを俺らはいつの間にか当然のように受け入れてる。

　端から見たらこの方が不自然か。