2-3 ため息 ページ8
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「村上君、よろしく」
ニカッって笑う顔は、
俺が女ならオチタなと思えるほど魅力がある。
「ああ、分かった」
って、渋々受け取ると、
「じゃあ」
って、ヒラヒラと手を振って部屋を出て行く。
その後ろ姿に、はあっと大き目のため息がこぼれる。
「ああアカン、幸せが逃げていくわ」
って、いっつも誰かが溜息つく度に言うてるのに、
こんなん聞かれたら俺が言われてまうやん。
それはアカン。
いっつも言う方に居りたいし。
気合だけ入れ直して、
「ほな、こっちの注文書からやっつけよか」
と、ホンマにすっかり忘れてた注文書を睨み付ける。
「そう言えば、最近これ書いた覚えないわ」
過去の請求書など見ても、
俺の名前はかなり過去まで遡らんと出てこない。
「なんや、亮の名前ばっかりやな」
そこまで来て、
ああ、請求する曜日が亮の出勤日と重なるのか。
そこまで行きあたって、
「毎回やったら、そりゃ嫌味の一つも言いたなるか」
亮の言い方に、トゲがある理由も理解できるな。
改めてスマンと思うと同時に、
「亮の注文の仕方が、えげつない程ドンピシャ過ぎて、無駄がなかったな。
あいつこういうとこ細かいし、きちんと来客の好みっちゅうか、
どんな酒が出そうかとかスケジュール見ながらしてくれてたんや。
めっちゃ聞かれたもんな、今週の予約状況とか」
亮が注文してる時、
無駄なものがなくて、
そうかといって足らなくなることもなく、
在庫管理もしやすかった。
俺の時は……結構在庫が偏ったり足らんかったりして、
慌てて走って貰ったこともあったな。
「なんやろ、俺より上手い注文しやがって。
あいつどこで習ったんやろ、教えてもらおうかな」
と思うと同時に、
イヤイヤそんなことしたら、
今より大きい顔されるわ。
それでなくても、
どっちが雇い主か分からんって思ってんのに。
とかなんとか、
予約状況と先週の注文書を見比べながら記入していく。
「ほれ、これでええやろ」
書き終わって満足してると、
「マスター、お客さんですよ」
バイトが声かけてきて、
「おう、今行くわ」
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作者名：にと | 作成日時：2019年4月6日 12時
