16-1 アドバイス ページ42
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二人ともカップを手にしたまま向かい合っている。
どちらも真剣な顔をして、
どちらもが自分の中を見返しているように。
「なんで、居らんようになったんか、教えてくれんかった」
忠義が口にして、続けて不安も、
「これからも、あそこに居ってくれるやろか？」
結局、連絡先は教えてくれへんかった。
村上君も本人が嫌がってるからと教えてくれんかったけど、
辞めさせたりシフトを変えるようなことはせんって約束してくれたし、
「居って貰わんと困るやん？ 楽しみにしてるんやで。
次は俺行かれへんけど、丸よろしくな」
「分かってるって。絶対行く」
カップの中身を飲み干して、
「丸、ありがと。それじゃあお願いするわ。
出来れば連絡先聞けたら聞いてきて」
「おん、そのつもり。分かったらすぐに知らせる」
笑顔はあるが、
「今日はもう寝よ。なんか疲れたし。先に風呂入り、お湯張ってるから」
着替えを持たせて風呂場まで案内する。
「ゆっくり入っといで」
忠義を風呂に案内してリビングに戻ってくると、
テーブルに置かれたスマホが目に入った。
「亮ちゃん、やっと会えた」
頬を伝うものも気にならんかった。
亮ちゃんは知らんやろ？
俺が調律師になろうとしたんは、亮ちゃんの言葉があったから。
俺がピアノを弾いてるのを、
何度もからかわれてたあの時の言葉があったからやで。
「お前、ピアノ教室からやり直したら？ 実力ないのも分からんアホなん」
「あほ、ピアノ教室やったら、『上手やで。音大行けるよ』
って言われるくらいにはなってるって」
「そうそう、一般人レベルでは上手いねん」
「でも、ここのレベルじゃないやろ」
と、いっつも言われてた。
もうほとんど慣れっこにもなってた気がしてたのに、
ある日いつもどおりからかわれてた時に亮ちゃんは、
「アホ言うてる方がアホじゃ。こいつは上手いねん。
ただ本番になると、誰に向かって弾いたらええか迷うだけで、
それさえ決まったら、めっちゃ上手いねん。
それも分からんお前らの方がアホやねん。
本質見抜く目を養った方がええで」
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作者名：にと | 作成日時：2019年4月6日 12時
