14-2 ミルクティー ページ37
.
俺も同じピアノ科に居たものの、
それこそ一浪してやっと入ったんやで。
それでも才能の有無なんて丸わかりで、
家の近所では上手いって言われてても、
俺なんて所詮才能なしって、
誰から言われんでもはっきり自覚も出来る訳で、
このままではピアニストとしては先行き怪しいと察したし。
それで、在学中に調律を勉強してん。
卒業後は調律師として就職できたし、
俺なりに万事OKってこと。
ピアノは趣味程度で続けられるし、
その辺の奴よりかは上手いし。
元々ピアノで食べていけるとも思ってなかったから、
案外気持ちよく生きてられる。
ピアニストだけで食べていけるのなんて、
ホンマに一握りも居れへんねんから。
俺はそうやって、
これまで生きてきた。
それでもやっぱり気になってたのは、
あの事故の後の亮ちゃん。
俺は自主練習用のピアノ 室が並ぶ棟で、
亮ちゃんが人と揉めてるのを、
俺が自主練を終えて部屋を出た時に鉢合わせた。
隣の部屋ではなかったんやけど、
声が聞こえて近付いて行けば、
すでに人垣というか野次馬が輪を作っていた。
最初は何を言いあってるか分からんかったけど、
近づく分だけ内容が伝わってくる。
「良かったな、身代わりが居って」
「なんやと！」
「そうやなかったら。お前が無事ですむはずないやろ！」
「怪我なんかさせてへんわ」
「声出んようになったって聞いたで」
「そ、それは……」
「ほれ、お前は無傷であんな才能のある子どもの声奪っといて、
よくもまあ、のうのうとピアノなんて弾いてられるな」
「……」
「ホンマや。俺やったら心苦しくて、ピアノに向き合えへんなるわ」
そう言うヤジが飛び交っていた。
ヤジ？ いや、あれは嫌味とかそう言う汚い感情が、
そこかしこから飛び出していたんや。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 109人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：にと | 作成日時：2019年4月6日 12時
