かけがいない光：黄・緒（いとぐち） (ページ4)

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1-2　　ジントニックページ4

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「これ、嵌ったな」

　グラスについた結露を指で拭うと、
　すっとグラスの中の氷が透けて見えた。

　マスターには俺がこんな風に見られているのかと、
　勘違いしてしまう程に。

「良かったです。お口に合って」

　にっこり微笑んだ唇の隙間から覗く八重歯が魅力的だ。

「マスターには、あの頃の俺の気持ちが分かるのかと思ったよ」

「まさか。結構口に出てましたよ。俺の魅力に気がつけよとか、
　俺の方が上手いねん、とかなんとか」

「そうそう、それ聞いた時、穴があったら入りたかったよ」

　グラスを片手で弄びながら優しく微笑む笑顔を見せる。

　その時のマスターは、
　『この人は、正当な評価を得たいのだろうが、
　そんな評価を文句を言うのではなく、
　実力を見せつけて認めさせたいのだろう。
　そして自分ではもっともっとって追い込むタイプなんだろう。
　この笑顔に癒される人はきっと少なくないはずだ』と思った。

　そんなことを思ってグラスを磨いてる間に、

「今度ここで二次会してもいいかな。
　出来れば貸し切りにしたいんだけど」

　と、言いにくそうに言葉にして、

「ここの近くの劇場で公演がある、その時打ち上げで使いたいんだが、
　一次会は飲み屋で、二次会はここでって思ってる。
　考えてくれないか。俺、ここの雰囲気好きなんだよね。
　特にこの窓から見える夜景がさ」

　カウンターの椅子をくるっと回して
　窓の方を向いて優しい顔をする。

「いいですよ。何日の何時からって言ってもらえたら、準備しますよ。
　飲み物とか食べ物とか言っといてくださいね」

　そう言うたら、またくるっと回ってこっちを向いた。