かけがいない光：黄・緒（いとぐち） (ページ29)

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11-1　ほんもの？ページ29

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　村上君が奥に引っ込んで、
　こっちは静かにBGMが流れるホールに綺麗な夜景を背中にしていた。

「見間違いとか？」

　忠義が聞いた。

「本人や。見間違いとかやない。
　ただ、相手は俺を覚えてないかもな」

「そっか。でも、ホンマに今日会えるんや」

「ああ、この向こうに居るねんで」

　店のホールと裏方を仕切るドア一枚にドギマギする。

「たとえ、人違いでも、よう似てるわ」

「名前は『りょう』なんやろ？」

「そうやで。やから、本人やって」

「でも、こういう所で本名使うん？」

　俯いたまま言う忠義の言葉に、

「えっ？」

　詰まった。

　忠義の方を向くけど、忠義は俯いたままで、

「ほら、丸らしいな。そこ、まず確認せえへんの？」

　笑ってる。
　いや、無理やり笑おうとしてる。

「でも、ホンマやって」

　焦った、忠義に言われるまで気が付かんかった。
　そうや、こういう世界や、偽名ってのもあるよな

「はいはい、期待せんと待ってます」

　やっと顔を上げてくれた忠義は、
　真顔やった。

　今ではもう、空になった手元のグラスに付いた水滴を、
　手で拭いながら。

「どっちにしても、答えはすぐそこや」

　ドアの向こうでくぐもったように聞こえる声は、
　あの時の彼で。

　お礼を言いたいと俺が来たことを聞いて、
　嫌がってるのだけははっきりと伝わってくる。