かけがいない光：黄・緒（いとぐち） (ページ25)

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9-1　　バイト君ページ25

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　最近、ピアノの調律に呼ばれる間隔が詰まってる。

　というのも、マスターである村上君って、
　音楽に対してこういう店をしてる割に疎いねん。
　音にもそこまで興味ないし、
　それほど知識があるわけでもなさそうだし。

　それがある時から急に呼ばれるようになって、
　それからここで演奏するピアニストにも評判が広がって、
　定期的に生演奏を希望する人が増えてん。

　それは口コミで広がって、お客の入りも増えて、
　しかもそれなりの常連さんが付いて来た。

　そうすると自然とお客の層も劇団員だとかそのファンとか、
　なんか知らんうちに、この店はそこそこ儲かるようになるし、

　そうなると俺も定期的に呼ばれるようになって、こっちにとってもいい事ばっかりや。

　やけど、
　いつからかとか、
　何がきっかけとかはなんも知らんかった。

　でも、さっきの村上君の言葉で、
　最初に音ズレに聞いた時、
　素人のくせにやるやんって思うより、
　生意気な奴としか思えなかった。

　何ならその顔拝んでやろやないかって思って声かけたのに、
　村上君の口から出たそのバイトの名前が、

　まさかの『りょう』で、
　イヤイヤそんなことないやろって。

　これは、絶対確認せなアカン。

「りょう？」
　そう呼ばれるバイト君。誰、なん？