4-2 スクリュードライバー（油断） ページ13
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「腕のいいピアニストです。
でも、事故以来ピアノからも離れたみたいで、
どのコンクールにも出てないし、
当時契約してた音楽事務所も辞めてました。
もう、何処を探したらいいのかさえ、分からないんです」
「学生で事務所と契約してたん？
それってそれなりの力がある奴やろ？
そんなんが居らんようになったら、世間でも騒がれたやろ？」
俺は知らんけどな。
ピアニストとか知り合いにも居らんし、
興味もないし。
今は、それなりに顔見知りの一人や二人くらいは居るけど、
それもここに来てくれる人しか居らんけど。
「そいつの名前は？ 知り合いの関係者に聞いてみたろか？」
「“リョウ”っていいます。僕の五歳くらい上なので、
二十五歳くらいのはずです。でも、
もうこの業界には居らんのかもしれません」
「そいつ、事故ん時にお前さんの知らん怪我してて、
弾けんようになったとかはないんか？」
そんで姿を消したってこともあるやろ？
五年も前やし、目の前のこいつは明らか子どもやったやろうし、
子どもの知らん事情があったとしても不思議はない。
会ったらアカンって
やっぱりそれなりの事情が存在してたと考えるのが、妥当やろ。
でも、
「いえ、その後すぐの単独コンサートは挙行されます。
怪我は考えにくいんです」
おいおい、
単独コンサートとか、
何処の大物やねん。
それも、学生の分際で。
俺が学生ん時、
何してたかめっちゃ怪しいねんけど。
「まあ、機会があれば聞いてみるわ。ただ、期待せんといてな。
俺の知り合いが知ってるかもってだけやから」
“リョウ”な。
ん？
あれっ？
「はい。でも、こんな僕のこんな話を聞いてくれて、
しかも信じてくれてありがとうございます」
丁寧な話し方の中に何か違和感を覚える。
「こんな話、誰も本気で聞いてくれる人は居なくて。
マスターだけです。ありがとうございます」
そう言うて、
甘いって言うてたカクテル飲み干して、
ドア開けて出て行った。
カロンって音がいつもより店に響く。
「まあ、こういう日もあるか」
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作者名：にと | 作成日時：2019年4月6日 12時
