3-3 ギムレット（遠い人を想う） ページ11
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「ん、ああ、亮か。あ、もう終わりか。
片付け済んだか、お疲れさん」
まるで機械か！
カウンターの椅子に腰かけて呆けてるマスターの姿に、
「マスター、どうしたんですか。なんかいつもと違いますけど」
「ん。あ、いや。何でもないで。済んだやろ、帰りや」
「あ、はい。でも、何があったんですか？」
「亮、何や知らんけど、今日はえらい食い下がるな。
なんかあったか？」
呆れた物言いに、
「それそっくり返しますわ。
マスターこそなんかあったんちゃいますの。
聞きますよ。マスターの愚痴くらい」
カウンターの向こうにまわり、
マスターの座る椅子と一つ開けて座ると、
「ん、いや。なんでもないで。
ただ、カクテルが外れただけやから」
何気なく言うたつもりやったけど。
「ええっ！」
酷く驚かれた。
「なんやねん。大きい声出して。びっくりするやん」
「えっ。やって、マスターの勘が外れたんでしょ。
なんでですか、俺初めて聞きましたけど」
って、ここでもまだ驚きの声。
「俺も、初めてや。外れたのは」
「……そ、そうなんですね。でも……めずらし」
「ああ、俺もや。あっ。早よ帰らんと遅くなるで。帰れ帰れ」
「ああ、はいはい。でもあんまり落ち込まなくてもええと思いますよ。
いつかはくる初めてが、今日やっただけでしょ。
じゃあ、お疲れ様でした」
カロンッ
ドアベルの音が店内に響いた。
「ああ。お疲れ」
声はドアの向こうに消えた背中まで届いただろうか。
「ま。亮の言う通りか。いつかは訪れる日やった、か。
ええこと言うやん」
椅子を直して、
最後の点検をしてから店の鍵をかける。
「ああ、今日もお疲れさん」
その声は、
明るいネオンの中に吸い込まれた。
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作者名：にと | 作成日時：2019年4月6日 12時
