TITILE ページ2
煤煙に蔽われた直方の南の町外れに、一軒の居酒屋が在った。周囲は毎年、遠賀おんが川の浸水区域になる田圃たんぼと、野菜畑の中を、南の方飯塚に通ずる低い堤防じみた街道の傍にポツンと立った藁葺小舎わらぶきごやで、型の如く汚れた縄暖簾なわのれん、軒先の杉葉玉と「一パイ」と染抜いた浅黄木綿もめんの小旗が、町を出外れると直すぐに、遠くから見えた。
中に這入はいると居間兼台所と土間と二室ふたましかない。その暗い三坪ばかりの土間に垢光りする木机と腰掛が並んで右側には酒樽桝棚、左の壁の上に釣った棚に煮肴にざかな、蒲鉾かまぼこ、するめ、うで蛸だこの類が並んで、上あがり框かまちに型ばかりの帳場格子がある。その横の真黒く煤すすけた柱へ「掛売かけうり一切いっさい御断おことわり」と書いた半切はんぎりが貼って在るが、煤けていて眼に付かない。
夢野久作「骸骨の黒穂」
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作者名:西谷まりな | 作者ホームページ:探せばあるかもしれない
作成日時:2018年6月8日 20時