やる気 ページ8
それからというもの、俺は宿探しもそっちのけでAのもとに通い続けた。常連、そう言われるのにも時間はあまりかからなかった。稼ごうと思えば金は稼げるタチだから、特に金にも困ることはなかった。
「最近やる気あるよな。何かあったか?」
「あー、まあな。」
幾度も繰り返されたこの問答はいつもこうはぐらかしている。お前の指名に会いに行っている、なんて腐っても言えない。こいつの紹介で出会ってしまった、それが癪で仕方がない。まあきっと、Aは俺に懐いているんだろうけど。
何度行ったって、Aはどこか掴めない。コロコロと変わる表情に見入ってしまう。これまで、恋人ごっこに興じてきた相手の女なんかとは違う。これがプロと言う奴なのかもしれないけれど、暫くはこいつに騙されていたい、なんて思ってしまう。
『家、引っ越そうかなぁ…』
「辞めんのか」
思わず口からこぼれた言葉に自分でも驚いてしまった。別にこいつがこの店を辞めようが、金の使いどころがなくなるだけで、特に困ったことはない。はずなのだが。
『いや、辞めないですよ。お金たまってきたんで、家貸りようかなって。』
辞める、という俺が提示した可能性を矢継ぎ早に否定した。親が手配した家は一人で暮らすには十分すぎる程の広さがあるらしいが、暮らしにくい、そう言っていた。
84人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:かうみ | 作成日時:2024年1月13日 18時