悲劇のヒロインにも ページ7
甚爾side
機嫌が悪そうになったと思ったら急に笑顔になったり、忙しくてよくわかんない奴だ。
給料がいいからこの仕事をしていると言っていたが、よく聞けば面白い答えが返ってきた。
『私の実家、会社経営で。お金も権力も結構あったんです』
将来を決められて、言いなりになるのは嫌だったから高校卒業と同時に地元を飛び出して東京に来た、そう言っていた。でも結局、作戦はバレていたらしく、家は実家の持ち家に変わっていたそうだ。
嫌な記憶、であるはずなのにそれすらもいい思い出かのように笑って話すA。時雨が言っていた、若いくせにリピートの客が多いというのにも納得だ。こういうところが、俺みたいな腐った人間を惹き付けるんだろう。
『でも、駄目ですね。東京に来ても主人公にも悲劇のヒロインにもなれなかった。結局、親を理由に逃げてきた自分が惨めに思えただけでした。』
自分語りばっかしちゃってごめんなさい、そう言って苦笑いするAの笑顔には少しだけ、悔しそうな表情が滲んでいた。
俺がお前を主人公にしてやろうか、出かかったそんな胡散臭い言葉は喉の奥に押し込んだ。
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作者名:かうみ | 作成日時:2024年1月13日 18時