お酒の飲み方【禪院甚爾】 (ページ3)

今日:11 hit、昨日:3 hit、合計:10,075 hit

雨とかさページ3

連れてこられたのは数日前に来たAの働くバー。開店前らしく、客の姿はなく、他のスタッフもあまりいなかった。

『これ、使ってください』

そう言って渡されたのはタオル。店の奥から引っ張りだしてきたのだろう。慌ただしく動き回っている。

『ちょ、ちゃんと拭かないと駄目ですよ』

風邪ひきますよ、なんて言いながら温かいお茶を淹れている。正直、理由とか深掘りされるものだと思っていたから驚いた。

｢聞かねぇの｣

『甚爾さんには甚爾さんの事情があるんでしょうし、聞きませんよ。』

なんだと思ってるんですか、そう言いながら彼女は笑った。

ある程度服が乾いて、コップの飲み物がなくなったところでタオルを机に置いて席を立った。ところで袖が引かれた。

『これ、持ってってください』

そう言って渡されたのはさっき使っていたであろうビニールの傘。開店前の静かな店内に外の雨音が小さく響いていて、まだ雨がやんでいないことが知らされる。また来店しなければいけない口実にされている気がしないでもないが、ありがたく受け取っていくことにした。