未来を託された者 ページ9
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「彼と違って、私は弱い人間なの」
こんな話してしまってごめんねと笑いかければ、炭治郎くんは真剣な眼差しで私の瞳をじっと覗く。
「Aさんは弱くないです。
あなたからは煉獄さんのような、
強い人の匂いがします」
匂いとはなんのことか、そんなことを考えるよりも、私にとって炭治郎くんが言ったその言葉はとても嬉しいものだった。
一瞬目が潤うが、彼のように強くあらなくてはと、私は誤魔化すように笑って、炭治郎くんにお礼を言う。
「炭治郎さん、父上の部屋から見つけてきました」
その後すぐ、棚の奥にしまってあって、なかなか探すのが大変だったと姿を現した千寿郎に、私はお疲れ様でしたと笑顔を向ける。
その後、日の呼吸やヒノカミ神楽の話などを話す2人を、私は何も言わずに眺めていた。
◇
「炭治郎くん、またいらっしゃってね」
千寿郎と一緒に、門の外まで炭治郎くんを見送りに出る。
「はい、またいつか」
そう炭治郎くんが返事すると、千寿郎があるものを差し出す。
「い、いただけません、こんな大切なもの…」
千寿郎の手に握られるそれは、杏寿郎の鍔だった。
葬儀の前、遺体と共に運ばれてきた、あの人の折れた炎刀を見た。
どれだけ凄まじい戦いをしたのか、ヒシヒシと伝わるそれを、彼が最後まで握っていたのだと思うと胸の当たりが苦しくなる。
思い出すのは、あの逞しい腕と頼りがいのある背中。
そして日々の鍛錬で硬くなった手の皮。
そんな彼の努力の結晶にも思えるようなその鍔を持つのは、炭治郎くんが相応しいと、千寿郎も話していたのだ。
ありがとうと、遠慮気味に彼の鍔を受け取った炭治郎くんが、ゆっくりと帰っていく姿を見つめる。
「杏寿郎さんは、炭治郎くんに未来を託したのね」
「…はい、そうですね」
彼の手も豆だらけで、見ているだけでも痛々しかった
炭治郎くんからは血の匂いがしていたし、まだ怪我が治りきっていないにも関わらず、私たちのためにここまで来てくれたのだろう。
『必ず鬼舞辻無惨を倒し、幸せな世界にする。』
そう真剣に話す炭治郎くんに、私は呆気にとられてしまった。
炭治郎くんは、江戸時代以降、姿すら見せない幻の存在のようにもなっているあの鬼に、必ず勝つと言ったのだ。
「…炭治郎くん」
あなたは十分、強いですよ
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作者名：西川あや x他1人 | 作成日時：2020年10月28日 20時
