過去 ページ8
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「すまん」
そう不器用な謝罪と同時に、少しずつ強くなっていく腕の力。
「次の任務、十二鬼月である確率が高いと聞いた」
「…」
フサフサと杏寿郎さんの柔らかな髪の毛が頬を掠める。
「君を置いていくなんて俺も考えたくはないが、
もしも…」
そう言葉を詰まらせる杏寿郎に、私はもう一度涙が出てきそうなのを我慢して、思い切り力を込めて杏寿郎を抱きしめ返す。
「…私、
とっくに覚悟なんてできていると思ってた」
そう呟くように声を発すると、杏寿郎の体がピクっと反応する。
あの日、杏寿郎が私に想いを伝えてくれた日。
もちろん私は杏寿郎のことが好きであったが、すぐに頷くことが出来なかった。
小さい頃から一緒に居たため、彼がとても強いのは知っていたけど、鬼殺隊である以上、いつ死んでしまうか分からない。
あなたとこれ以上深く長く一緒にいてしまったら、私が1人になった時に耐えられないと思ったから、余計にすぐに返事することが出来なかった。
「…あなたが居なくなったら、どうしたらいいの」
そう消え入りそうな声で言う私に、杏寿郎は何も答えず、ただただ私を抱きしめ続けた。
◇
「杏寿郎」
どのくらい時間が経ったのか。沈黙を破るようにそう声をかけると、杏寿郎は不思議そうに私を見る。
「あなたが死んでしまったら、
多分、私はあなたの後すぐに追うわ」
「…それは、困るな」
そんな風に言って貰えるのは嬉しいが、君には長く生きて欲しい。
そう言って、杏寿郎は私の目を見つめる。
「…だから、賭けをしませんか」
「賭け？」
拳一つ分もない距離で見つめあったまま、私がそう話すと、杏寿郎は首を傾げる。
「そう、言うなれば宝探しね」
杏寿郎は、
何でもいいから十のものをどこかに隠して。
そしてあなたが死んだ後、私がそれを全て見つけることが出来たら、あなたも私が死ぬことを許して。
「これなら、あなたが居なくなってしまっても
あなたの存在を感じることができるし」
探している間は、私も一生懸命、あなたのいないこの世界を生き抜くわ。
遺書なんて湿気たものよりずっと良いじゃない。
「ふふっ宝探しなんて言うと、
なんだか素敵に聞こえてしまうわね」
「…君は本当に突飛なことを思いつくな」
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作者名：西川あや x他1人 | 作成日時：2020年10月28日 20時
