過去 ページ40
◇◇
結婚して数ヶ月程経った頃。
「胡蝶!お邪魔する!!」
「失礼致します」
2人で診察室に入ると、椅子に座った小柄な少女が私たちに顔を向ける。
「はじめまして、胡蝶さん。
私、煉獄杏寿郎の妻でございます」
「…あら、随分とお綺麗な方ですね」
煉獄さんから常々お話は聞いていますよと、ニコニコ私に微笑みかけるのは、蝶屋敷の主人である胡蝶しのぶさん。
「では杏寿郎さん。少し外に出てて貰えますか?」
「む。それは無理だと先程から言ってるだろう!」
一緒に診察内容を聞くと言って、その場を離れようとしない杏寿郎を無理やり理由を作って外に出すと、胡蝶さんはとても楽しそうに私たちを見ていた。
「…煉獄さんから体調が優れないと聞きましたが、
具体的にどのような症状か教えて頂けますか」
目の前の椅子まで案内され、私がゆっくりと腰を掛けると、胡蝶さんは紙と筆を持ちながら聞いてくる。
「…あの、先に謝っておきたいのですけれど」
そう私が話し始めると、キョトンとした顔をする胡蝶さんは、不思議そうに首を傾げる。
「不妊の治療をしていただきたくて」
彼には聞かれたくなかったものですから、どうしても体調が悪いと言うしか…と申し訳なくなって謝れば、胡蝶さんは驚いたように声を漏らす。
「女のお医者様は周辺ではおりませんし、
信用のある方が良くて…」
嘘までついて申し訳ありませんと、もう一度誠意を込めて頭を下げれば、胡蝶さんは頭を上げてくださいと焦ったように私の肩に手を添える。
「…Aさん、でよろしかったですね?
大変申し訳ないのですが、
私はそういった分野に明るくありません」
そう心苦しそうに謝る胡蝶さんに、私は更に申し訳なくなってしまう。
「いいの、本当に気にしないで
こちらこそ事前に確認すべきでしたね」
「…お力になれず、すみません」
本当に何も悪くないというのに、苦しそうに謝る胡蝶さんを見て、私はなぜこうもあの人の周りの人間は心が綺麗で良い人ばかりなのかと、今はどこにいるのかも分からない彼の姿を思い浮かべる。
「あの、胡蝶さん。お願いがあるのですけれど」
「はい…?」
私は小さく笑いながら、首を傾げる胡蝶さんの小さな手に自分の手を載せる。
「少しだけ、お話だけでも聞いてくださらない?」
「…!はい、もちろん」
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作者名:西川あや x他1人 | 作成日時:2020年10月28日 20時