親子 ページ35
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「お、お兄様…！それっ」
「許せ杏寿郎、火急のことだ」
驚いて声を上げる私を無視して、そう呟いた兄は母に向かってその手紙を突き出す。
「中を見せることは流石にできませんが、
これはA宛に杏寿郎が遺したものです」
「…遺書、ということですか」
目を細める母が私に視線を向ける。
「読んでしまったら、母様もすぐ分かるさ」
「杏寿郎は素晴らしい人間だ」
そう私の前に庇うように立つ2人に、私は思わず目が潤うが、大胆な性格の次男が、この場で本当に手紙を開けてしまわないか冷や冷やする。
そして数十秒程、硬直状態が続くと、母は諦めたように溜息をついた。
「そんなこと、とっくの昔から知っています」
「…へ、」
驚きの母の言葉に、素っ頓狂な声を上げると、その間抜け顔を今すぐ辞めなさいとしっかり怒られる。
それを反射的に直して向き直ると、お母様は今までに見たことも無い表情で、私達のことを見回した。
「生涯を一人で歩むということは、
そんなに簡単なことではありません」
清と正司は外でいくらでも働き手はあるけれど、女性が一人で生きるには厳しい世の中なのは、あなたでも分かるでしょうと、優しく噛み砕くように母は私に話しかける。
「…あなたに、これ以上辛い思いはさせたくない」
「っ、」
初めて聞く母の本音に、私はキュッと胸の辺りが締め付けられ、息が詰まる。
幼少時代、散々母には迷惑をかけてきた。
私の夢を叶えようと、女である私にも兄と同じく積極的に教育を受けさせてくれたのに、私は勝手に自己完結して、学校を退学してしまった。
「やり方が汚かったのは認めます。
しかし、あなたの幸せは杏寿郎さんの願いでもある」
「親が子の幸せを望むのは、
そんなにいけないことですか」
◇◇
「…お兄様、先程はありがとうございました」
「気にするな。手紙はお前の部屋に置いておいた」
父も合わせて久しぶりに家族全員が揃い、みんなで食事を済ませた後、私は部屋の前で兄達と話す。
「杏寿郎と隠した場所に隠し直してやろうか」
「もう。意地悪しないでくださいよ」
そう溜息をつきつつ、諦めたように笑みを零せば、兄たちは顔を見合わせて真剣な顔をする。
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作者名：西川あや x他1人 | 作成日時：2020年10月28日 20時
