参 ページ33
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「ん…?」
勝手に着替えてしまおうと、振袖の入っていた箱を開くと、底に材質の違う厚紙が敷いてある。
虫除けにでもなっているのかと、呑気に底から取ってみると、そこには1枚の手紙があった。
「っぁ」
まさかこんな所から出てくると思わず、約1年ぶりの発見に、私の心臓はどくどくと脈を打ち始める。
便箋を裏返せば、彼の字で煉獄杏寿郎と記されており、私は何度もその名前を指でなぞる。
天国から送られてきたとも思えるソレを、私は振袖を着たまま、引き出しに入った挟みで便箋を開いた。
◇◇
Aへ
この手紙は何枚目だろうか。
君のことだから、飽きてしまってはいないか?
この手紙を君が読んでいるということは、俺は既にこの世に居ないのだろう。君の晴れ姿を見られなかったこと、本当に残念に思う。
これを隠す少し前に、君の家族と話をした。
その時、君が大好きだと言っていたお兄さん達には、この宝探しの事情を伝えた。
最初こそ複雑な顔をしていたが、では見つけられない場所に隠そうと、この一宮家に隠すことを提案してくれたのだ。
君のお兄さんは、君に似て、本当に素敵な人達だ。
そして、この手紙を読んでいるであろう
20歳のA。
成人おめでとう。
本当のことを言えば、君がこんな宝探しなどやめて、前向きに生きてくれると嬉しい。
俺の事など忘れてしまって、愛する者と家庭を持って幸せになって欲しい。
昔から頑固な君は、納得いかないと怒るかもしれないが、辞めたくなったらいつでもやめてくれて構わない。
俺は、君の幸せを1番に願う。
◇◇
「…狡い人」
私が途中でやめる訳ないでしょうと、手紙を持つ手に自然と力が入り、紙にシワが寄ってしまう。
「…杏寿郎、杏寿郎…、杏寿郎」
抑えきれなくなった感情を吐き出すように、彼の名を確認するように何度も口に出せば、気持ちが暴走し始める。
あなたに抱きしめられたい。
大きな手で包み込んで欲しい。
あの優しい声で私の名前を呼んで。
「…お願い」
久しぶりに高まる感情に歯止めが聞かず、私は苦しくて部屋の中で蹲る。
…もう、このまま死んでしまえば良いじゃないか。
そんな考えが頭を過る中、私は必死に自分を抑え込み、母が戻る前に取り乱した呼吸を整える。
「…七つなんて、あっという間よ」
そう自分に言い聞かせた。
◇◇
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作者名:西川あや x他1人 | 作成日時:2020年10月28日 20時