来訪 ページ32
◇◇
鬼舞辻無惨の死から、早一年。
鬼のいない世界は、元々危険に遭遇することの少なかった私にとっては、驚く程に変わりない。
「っ姉上!大変です!」
しかし、そんな普段通りの昼下がり、大変な訪問者が煉獄家を訪れた。
◇
客間に案内し、急いで茶を出すと、目の前の客人は渋いと一言。
「…最近は少し忙しくて」
「そんなもの言い訳になりませんよ」
もちろん、この人は私の母である。
古い茶葉を出してしまったことを言い訳気味に話す私に対して、ピシッと背筋を伸ばしたまま私を一瞥すると、早速大きな紙袋を差し出してくる。
「…これは一体」
「あなたがいつまで経っても取りに来ないから、
わざわざ届けに来て差し上げたのでしょう」
そう嫌味っぽく話すお母様に、私は逃げ出したい気持ちを抑えながら、袋の中身を確認する。
「振袖…?」
箱の中身は派手な色の生地。
あと2週間後にある成人式を気にしていなかった訳では無いが、出席する予定のなかった私は、ゆっくりと箱に振袖を戻す。
「A、一度腕を通してみなさい」
お祖母様もお母様も着たというその着物は、全く汚れなどなく、買ったばかりのような状態で箱の中に入っている。
「…成人式など行くつもりありません」
本来ならば、同じ日に蜜璃ちゃんと出席する予定だったし、祝って欲しい友人ももうこの世にはいない。
「それはあなたの勝手でしょう」
成人式は、あなただけのものでは無い。ここまで育てた親のものでもありますと、最もらしい理由を返されてしまう。
当然、私を産み、ここまで育ててくれた母と父には感謝が尽きない。言い返すことの出来ない私は、言われるがまま、用意された振袖に腕を通す。
「杏寿郎さんに、見せてあげたかったわね」
「…」
赤色の生地に、金色の刺繍が入っており、とても華やかなその柄は、成人の日にピッタリで、鮮やかな色はどこかあの人を連想させる。
鏡の前で少し調節してもらった後、お母様は着慣れるようそのままでいなさいと私に指示を出すと、少し槇寿郎さんと話をすると言って部屋を出ていってしまった。
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作者名:西川あや x他1人 | 作成日時:2020年10月28日 20時