面影 ページ31
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そんな善逸くんと他の隊士のやり取りを見て、私がおかしくて声を上げて笑ってしまうと、善逸くんは不思議そうに私を見て、首を傾げる。
「善逸くん、ほらお口開けて」
「っえ?」
小さい頃に一度だけ熱を出した杏寿郎も、薬は苦いだなんだと、頑なに飲みたがらなかった。
それに、あの人は真剣で斬られたり、殴られたりするのは平気な癖に、何故か注射を嫌う。
余っ程斬られる方が痛いじゃないかと、病院に行きたがらなかった彼を思い出して、更に笑いが収まらなくなる。
「ふふっ、失礼するわね善逸くん」
「っへ!?」
善逸くんのベッドに腰掛けて、湯呑みを口の近くまで運んでやると、杏寿郎と同じく嫌々ながらも口をつけ、上下に喉仏が動き始める。
「はい、よく出来ました」
「っだぁぁぁあ!俺って幸せぇぇええ!」
そう叫ぶ善逸くんにニッコリ笑いかけ、騒がないよう注意すると、ベッドに正座して頭にお花を撒き散らしている。
そんな素直すぎる彼に、私は心の中で礼を言う。
最近では血を見ただけで、杏寿郎のことを思い出し、呼吸が苦しくなるのを感じていた。
肺が痛くなって、目眩がしてきて、杏寿郎が腹から血を流している様子が頭の中に流れてくる。
そんな地獄のような日々は、杏寿郎との幸せな記憶により一掃され、今はじんわりと心が暖かいのを感じる。
「私って、結構単純な人間だったのね」
「…?」
そして、何より薄情だ。
私の顔を真ん丸な瞳で見つめる善逸くんに、私はふっと笑いを零して立ち上がる。
彼が居なくなって1年も経っていないというのに、あんなに幸せだった記憶を頭の片隅にやるなんて。
お盆を持ちながら廊下を歩いていると、窓から見える花々に、私は思わず立ち止まる。
そういえば、柱稽古や蝶屋敷のお手伝いをするようになってから、宝探しも出来ていなかった。
「いつになったら、アナタの元へ行けるのかしら」
杏寿郎は、もう瑠火さんと会えただろうか
しのぶちゃんは、ちゃんとお姉さんと再会できてる?
蜜璃ちゃんと小芭内は、祝言でもあげている頃かしら
時透くんは、天国でも折り紙をしているのかな
◇◇
「いつになったら、私は皆に会えるの…」
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作者名:西川あや x他1人 | 作成日時:2020年10月28日 20時