苦しみ ページ30
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「…不死川様、よくぞご無事で」
「…お前、煉獄の」
ベッドに横たわる不死川さんを見つけて、独り言のつもりで挨拶すると、小さく目が開かれる。
こんな状態になってもなお意識のあることに驚いていると、彼はハッと苦しそうに笑顔を作った。
「なんて顔してんだァ」
余程私の顔が酷かったのか、カスカスとした声でこちらに手を伸ばす不死川さんの手には指がない。
苦しい。
この部屋にいると、あの日、隠の方たちに運ばれてきた杏寿郎を思い出す。
鬼に貫かれた腹と潰れた左目。
フラッシュバックする脳内の記憶に、呼吸の仕方が分からなくなってきた私は、申し訳ないことに目を瞑ってしまう。
「…不死「Aさん！」
胸が苦しくて、不死川さんの名前を呼ぼうとすると、ちょうど帰ってきたアオイちゃんにより遮られる。そして、幸運なことにアオイちゃんは私に、裏の仕事を手伝うよう言い渡した。
◇◇
蝶屋敷でお手伝いをすること数週間。
痛み止めなど、薬を配合する作業にも慣れてきた私は、いつもと同じ時間に粉を溶かしたお湯をお盆に乗せて運ぶ。
「イヤァァアア！飲みたくないよぉぉお！」
ある部屋からそんなけたたましい声がして、やっと彼も起きたのかと私は少し笑ってしまう。
「っあれ、今Aさんの声がしなかった？」
「あぁん？何言ってやがる！」
「コラコラ伊之助…少し落ち着け」
そんな賑やかな声にまた少し笑いを零し、私はその部屋を数回叩いた。
「うわっもう来ちゃった！また薬の時間だぁああ！」
「我妻うるせぇぞ」
そんな善逸くんへ他の隊士が注意するのと同時に扉を開いて顔を出すと、3人は大きく目を見開く。
「皆さん、おはようございます
薬のお時間ですよ」
「えっ！Aさん？！」
驚いたように私を呼ぶ炭治郎くんに、そっと唇に人差し指を当てて微笑むと、炭治郎くんは自分で自分の口を抑えて、顔を赤くする。
全員に配り終え、全員がしっかりと薬を飲み干すのを確認していると、善逸くんだけが小さな声で何か葛藤している。
「飲まなきゃ。Aさんが居るんだから良いとこ見せないと。でも苦い、とにかく苦い。いくらAさんが持ってきてくれたとしても、薬はいつも通り苦い。でもでも、Aさんがくれた薬だから」
「いや、怖ーよ」
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作者名：西川あや x他1人 | 作成日時：2020年10月28日 20時
