弟 ページ3
・
「「…」」
シンとした部屋の中、私は1人立ち上がる。
怒ったような顔で空を見つめる槇寿郎さんが何を考えているのかは分からないが、私にはまず行かなければならないところがあった。
「…おい、どこに行く」
そう腕を引く槇寿郎さんに軽く笑いかけ、決まっているではないですかと口を開く。
「千寿郎のところですよ」
◇
「千寿郎、入りますよ」
そう言って部屋の襖を開けると、もうそこには千寿郎の姿はなく、綺麗に畳まれた寝巻きだけが隅に置いてある。
何かに引かれるように私が台所へ向えば、すぐに彼に似た派手髪が目に入った。
「千寿郎」
「…姉上」
ドアの前にたったまま、そう静かに声をかければ、千寿郎が血の気が通ってないような顔色で振り向く。
「…こっちにおいで」
そう言って私は両腕を前に出し、千寿郎が入ってくるのを待つ。
そんな私を放心状態で見つめる千寿郎は、本当に少しずつ足を踏み出し、短い距離を数十秒かけて歩いた。
「…」
やっと到着した千寿郎を、私はできるだけ優しく包み込み、トントンと軽く背中を叩く。
「…っ、」
徐々に耳元から聞こえてくる嗚咽。
「いいのよ。今は我慢なんてしなくていい」
声を抑える千寿郎にそう声をかけると、背中に回る手の力が一気に強くなる。
次第に声を上げて泣き始める千寿郎に、私は…大丈夫、大丈夫と、何度も声をかけて抱き締めた。
・
「ねぇ千寿郎」
そう私が声をかけると、彼にそっくりな色合いの目が、光のない状態で私に向く。
千寿郎の真っ赤に腫れた目元に少し手を添えて、私は先程鴉からきいた話を少しずつ伝える。
彼がどれだけ立派な最後を迎えたのか。
私は何度も何度も繰り返す。
「あなたの兄上は、本当に凄い人よ」
そう言って私が笑いかける度、千寿郎は目に涙を浮かべながら、姉上も泣いてくれと縋るように頼んだ。
◇
もう、一時間経っただろうか。
千寿郎は泣き疲れたのか、台所だと言うのに私の膝の上で熟睡している。
「…こんな所で何してる」
そう言って台所に顔を出した槇寿郎さんは、床で寝そべる千寿郎を見て驚いたような顔をした。
「私では部屋まで運べないので、
千寿郎をお願いしてもよろしいですか?」
「…ふん」
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作者名:西川あや x他1人 | 作成日時:2020年10月28日 20時