ページ ページ13
撮影が終わると外は薄闇。マネージャーに送ってもらって家に着いた時はちらちらと街灯が灯り始めていた。
「ありがとうございます、明日は？」
「9時にお迎えにあがります」
マネージャーさんに予定を確認して頭を下げる。
いつか広くて「芸能人御用達」みたいな家に住みたいものだけど、デビューしたてじゃそれはまだ夢。
ちょこっとだけ広くてセキュリティも普通よりはマシなマンションにキーをかざして中に入る。
いつものようにロビーのポストを見る。
剃刀が仕掛けられてからというもの、それが1日で一番緊張する行為になってしまった。
軽く深呼吸して、注意深く郵便物を取り出す。
月末の電気とガスの明細表、行きつけの古着屋さんからの案内。一枚一枚捲っていくと赤が目に入る。
赤。
かつて切れた指先に一瞬痛みが走った気がしてばさばさと広告と手紙が落ちる。
心臓がどくどくと鳴る。うまく呼吸ができなくて、肩が揺れる。
誰か来る前に拾わなきゃ。
散らかった紙をバタバタと拾い集めて息を吸う。部屋で見ようとエレベーターに乗り込んだ。
赤。
拾ったそれはおそらく元は白い封筒だった。刃物は仕込まれてはいないようで、自分の手をまじまじと観て傷がないことを確認。
人に会うのが怖くて階数ボタンを連打。チンっと巫山戯た音を出して止まった箱から小走りに部屋へと向かう。
玄関のドアが閉まれば、ここは安全地帯。明細だとかは框に投げ出してその薄気味悪い封筒を手に取った。
まだらに赤黒く、所々は掠れて茶色く染められた封筒。
きっと元は白かった。その赤には見覚えがある。これは血の赤だ。
僕の手には傷はない。
じゃあ、これはだれの？
薄気味悪くてごくりと唾を飲み込んだ。
触れているのが気持ち悪くて指先でつまむように持つ。
ご丁寧に封蝋なんかで止められた封を震える手先で剥がして中の白い便箋を取り出す。
「松村北斗様
はやくふたりで死んじゃおう
わたしはあなたが好きなのです
あなたとふたり死ぬために
あなたのもとへ向かいます」
可愛らしい丸文字と、意味のわからない文。
いつも客席から、ファンレターから感じる好意と、血の香り。
そして殺意。
ありえないコントラストにぞわり、と身の毛がよだつ。
僕の居場所もとうにばれている。
血まみれの封筒を送るくらいおかしなやつに。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 370人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雪音（ゆのん）(プロフ) - なので、きょもほくの「うつくしいひと」のきょも視点をお願いします。 (1月29日 12時) (
レス) id: c18d06783b (このIDを非表示/違反報告)
雪音（ゆのん）(プロフ) - あと、久々にリクエストなんですが、きょもほくの「うつくしいひと」という話を読んでいて、その話のきょも視点が読みたくなりました。 (1月29日 12時) (レス) id: c18d06783b (このIDを非表示/違反報告)
雪音（ゆのん）(プロフ) - こんにちは！お返事ありがとうございます。わかりました！楽しみに待ってます(^o^) (1月29日 12時) (レス) @page3 id: c18d06783b (このIDを非表示/違反報告)
2020(プロフ) - 雪音（ゆのん）さん» お久しぶりです！にのふま、時間ができたら修正してアップします (1月28日 22時) (レス) id: 5073d9421b (このIDを非表示/違反報告)
雪音（ゆのん）(プロフ) - こんばんは！あれ？にのふまの話、消えてる？ (11月3日 17時) (レス) id: c18d06783b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：2020 | 作成日時：2021年4月27日 16時
