-S.side- ページ9
迎えに来てくれた照の車から降りて、涼太と楽屋に向かおうとしたときだった。前から慌てた様子で走ってくる康二にどうしたのかと聞けば、Aが戻ってこないって。
「戻ってこないっていったって、」
『中の自販機ゆきちゃんがいつも飲んでるやつ買えんかったん、』
...もしかして、と思い隣を見れば同じことを考えていたのか来た道を戻ろうと走り出していて。もう一度中を探すよう康二に言い残して涼太の後を追いかけた。
「なあ、外の自販機って、」
ようやく追いついた涼太に話しかけた瞬間、何かが崩れるような大きな音がして。慌てて向かえばそこには崩れて転がったパイプと照がいて。その腕の中には探していたAがいた。
『舘さん、ちょっとAと先戻ってて』
『...わかった、翔太』
「ん、」
呆然とするAを支えて楽屋に戻る涼太を見送ったあと、座り込んでいる照に手を伸ばせば苦笑いをしていた。
「足は？」
『テーピングすれば今日ぐらいはどうにかなるしょ』
掴まって立ち上がりながらほぐす仕草をする照にほっとして行きを息をつけば、危ないから俺らも戻ろうと言われそのまま俺たちも楽屋に向かった。
『...ごめんなさい、』
そう呟いたAの目には今にもこぼれそうなぐらい涙がたまっていて。テーブルの上で握りしめている手は自覚がないのか今にも血が出そうなぐらい爪が食い込んでいた。
やばい、そう思ったときには口から出てしまっていた。
「...お前、いま変なこと考えてないよな？」
びく、と肩を震わせたAにため息をつきそうになるのをグッとこらえる。翔太、と隣から聞こえた声にわかってると返せば、それ以上は何も言ってこなかった。
「もう気付いてるだろうからいうけど、お前がいまどういう状況にいるのかは俺たちは聞いてる。
その上でいう、1人で外に出たのはお前が緩んでたからだ」
『ちゃう、翔太くん』
口を挟もうとした康二を誰かが止めたのか、それ以上は言ってこないのをいいことに俺は目を合わせないAに向かって口を開いた。
「でも、お前は外に出ちゃいけない訳じゃない。
一番悪いのは、出られないような環境にしたヤツだろ？」
『で、も、』
声を震わせるAの隣にいって肩をつかめば、目にためた涙をぽたぽたとこぼしている。
『お願いだから、もっと俺らに甘えてくれよ
お前が思ってる以上に俺らはお前が大切なんだから』
そういって抱き締めることしかできなかった。
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作者名：nio | 作成日時：2023年5月27日 20時
