紅一点は事務所1の騎士様！？(3) (ページ3)

今日:58 hit、昨日:14 hit、合計:57,962 hit

-R.side- ページ3

「...あれ、これAの」

家に帰り鍵を出そうとカバンを開けた時だった。いつもAが身に付けている猫のキーホルダーが俺のカバンから出てきた。明日渡すにしても一応伝えておこうと思いなんとなく電話をしてみれば、数時間前までは元気そうだったのに声のトーンが落ちていた。

「...何かあった？」

思わず訊いてしまえば言いにくそうにするAに出すぎたかなと反省する。でもただ元気がないだけじゃないのは、わかるから。

「...些細なことでも何かあったなら聞くよ？
無理には聞かないけど、」

最後に、ともう一押しすれば、少しだけ考えたのか数秒の間の後に

『無理じゃなかったらでいいんだけど、』

今から家に来てくれませんか。
思っていなかった話の展開にAには伝わないぐらいの、ほんの一瞬だけ固まってしまう。片付けたバッグに再び財布と鍵だけしまい、住所を送るように伝えて電話を切った。

『舘さんが電話くれてよかった』
「...もしまた心当たりないものが届いたら1人で開けないで必ず呼んで」
『...うん、ありがとう』

マネージャーに事の顛末を話せば明日の朝イチ事務所に来るよう言われ、それを伝えればありがとうとお礼を言われる。
さっきまで震えていたのが嘘かのように落ち着いているAにもう少し甘えてくれればいいのに、なんて残念に思うのはいま思うことではないけど。

「A、1人で大丈夫？」
『...大丈夫だよ？』

少しだけ動いた眉に嘘が下手だな、と思わず笑っていれば隣からクッションを投げられてしまう。その反応にちゃんと彼女は自分にも心を開いてくれているんだと喜んでしまったのは、彼女には知られてはいけない。

「ごめんごめん、俺の聞き方が悪かったよ。
明日朝マネージャーと迎えに来るから、絶対に1人で外に出ないでね？」
『うん、わかった』

何かあればすぐに連絡するように伝えて家を後にして少しだけ考える。
きっとこれが阿部や照ならそのまま泊まるんだろうな、なんて。

「...今のうちに捕まえないと」

まずはこの犯人を捕まえることが何よりも先だ。
1週間後にはライブが再開するとはいえ明日からは舞台稽古で俺たちは一緒にいられないから。
エントランスで立っていれば、呼んだばかりのタクシーが横に停まってくれる。手に持っていた証拠写真をカバンにしまい、そのままタクシーに乗った。