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「 …、誰か、忘れ物 」
後ろから聞こえた、ほんの少し息の上がったその声に思わず立ち止まってしまって、また動けなくなる。
既に振り向いている北斗くんは私の後ろ側を見つめた侭、呼び掛けによって音ちゃんと慎太郎くんも此方を振り返った。
だけど、私はどうしても振り向く事が出来なくて。
「 きょも! 」って、慎太郎くんが呼んだ彼の愛称を、意味も無く頭の中で繰り返す。
「 あれ、忘れ物あった??確認したつもりだったけど、 」
「 ……落し物かも。テーブルの下にあった 」
カシャリと金属と金属が擦れ合う音に、それが何なのか見なくても想像出来た。
「 うわ、鍵とかいっちゃん困るヤツじゃん 」って慎太郎くんの声に、音ちゃんが、これAのじゃない?って返すから。
「 … 」
「 A?どうかしたの? 」
振り向くしかない状況になって。
恐る恐る身体を動かして、目線は余り上げ過ぎない様にしながら向きを変える。そしたら視界に、開かれた白い手の平と、その上に置かれた鍵が映った。
其処に付けられているのは、毎日、幾度となく見て来たキーホルダー。
「 …、私のだ 」
「 やっぱり。当たった〜 」
大我くんの顔を見れない侭、ゆっくりと彼に近付いて鍵に手を伸ばす。震えた指先がひんやりと冷たい金属に触れて、取ってそれから、少しだけ彼の柔い肌を掠めた。
その熱に驚いて、思わず鍵を握った手を、勢い良く引っ込める。
「 っあ……有難う、 」
今にも消えそうな声だな、って、発した後で思った。
小さなお礼が彼にちゃんと届いたかどうか分からなかったけど、言い直す余裕は私には無くて。軽く頭だけ下げると、ぐるり、身体の向きを元に戻す。
「 A良かったね、気付くの家の前とかだったらしんどかったよ 」
「 そう、だね 」
「 じゃあ今度こそ帰るか〜、きょもありがとね! 」
そう言ってブンブンと手を振った慎太郎くんがまた歩き始めて、音ちゃんもそれに続く。
最後まで此方を振り向いていた北斗くんが背中を向けたのを見て、私も足を上げた。さっきまであんなに足取りが重かったのに。多分、一刻も早くこの場を離れたいって、そう思ってるんだ。
……だけど、それは叶わなかった。
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鳰(プロフ) - akikumaさん» 嬉しいコメント、有難うございます。大好きだなんて、恐縮です……。不器用な恋模様をダラダラと書いてしまっていますが、もう少しだけ引っ張ります。どうか最後まで楽しんで頂けますように😌 (4月25日 16時) (レス) id: 1722422845 (このIDを非表示/違反報告)
akikuma(プロフ) - 大好きな作品です!読んでてとても切なくなります🥺続き楽しみにしています! (4月23日 1時) (レス) @page50 id: 5677edd0e4 (このIDを非表示/違反報告)
鳰(プロフ) - ごましおさん» 暖かいコメント、有難うございます。前にも読んで下さっていたんですね、また出会えて凄く嬉しいです。自分なりのペースにはなりますが、今回は最後まで書き切るつもりですので、お付き合い頂けましたら幸いです。 (1月30日 0時) (レス) id: 348ed03cac (このIDを非表示/違反報告)
ごましお(プロフ) - 前回書かれてたときからこの話が大好きだったので再掲してくださって本当に嬉しいです(T-T)これからも楽しみにしてます…! (1月24日 10時) (レス) @page22 id: 4d6203abd5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鳰 | 作成日時:2023年12月17日 15時