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グルグルと回る黒い感情。笑顔を貼り付けた侭でいると、不意に田中くんの瞳が私を捉える。
視線がぶつかったほんの数秒間、自分の抱えた醜さを見透かされてしまいそうな気がして、背中を冷や汗が伝った。
けど、田中くんは直ぐに何時ものへらりとした笑顔を見せて、「 んな顔しなくてもAちゃんと北斗の分はすぐ来るよ 」なんて宥める様な口調で言う。
「 あ……あぁ、うん 」
「 ね、俺の事下の名前で呼んでね、Aちゃん 」
「 え? 」
強調して名前を呼ばれた事で、何時の間にか相田ちゃんから呼び方が変わっていた事に気付く。
何で急に?って顔に出てしまっていたのか、「 慎太郎も北斗もAちゃんの事下の名前で呼んでるからいいでしょ? 」って。
「 北斗の事何て呼んでる? 」
「 えっと、北斗くん 」
「 慎太郎は? 」
「 慎太郎くん 」
「 じゃあ俺は? 」
「 …田中くん? 」
「 いや何でだよ! 」
高校の頃からよく揶揄われてたから、揶揄い返してみたくなって。そしたら予想通りの反応が返ってきた。拗ねた様子でいる彼に、ごめん冗談だよって笑って、樹くん、って言いかけた時。
「 お待たせしました、此方ガトーショコラになります 」
私の声を遮ったのは、何時の間にか樹くんの隣に並んでいた、大我くんだった。
ぱさり、と目にかかる金色は彼の表情を伺わせなくて、それが余計に雰囲気を怖く感じさせて、思わず俯く。
再び顔を上げる事は私には難しくて、コトリと目の前に置かれたお皿に触れている白い指先が、視界から外れるのをじっと見つめていた。
「 此方、苺のショートケーキです 」
「 きょも堅すぎね? 」
「 樹は油売りすぎ。戻るよ 」
「 待って今Aちゃんに名前呼んでもらえるとこだから 」
「 …んなの、また今度にしろ 」
「 わ、ちょっ、痛い痛い! 」
二人の気配が遠のくのが分かって、やっと視線を元に戻せた。
あの日みたいに大我くんに引っ張られて連れて行かれる樹くんが、苦笑いしながら私に手を振る。
小さく手を振り返すと同時に、遠く感じてしまう大我くんの後ろ姿に、また胸が痛くなった。
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鳰(プロフ) - akikumaさん» 嬉しいコメント、有難うございます。大好きだなんて、恐縮です……。不器用な恋模様をダラダラと書いてしまっていますが、もう少しだけ引っ張ります。どうか最後まで楽しんで頂けますように😌 (4月25日 16時) (レス) id: 1722422845 (このIDを非表示/違反報告)
akikuma(プロフ) - 大好きな作品です!読んでてとても切なくなります🥺続き楽しみにしています! (4月23日 1時) (レス) @page50 id: 5677edd0e4 (このIDを非表示/違反報告)
鳰(プロフ) - ごましおさん» 暖かいコメント、有難うございます。前にも読んで下さっていたんですね、また出会えて凄く嬉しいです。自分なりのペースにはなりますが、今回は最後まで書き切るつもりですので、お付き合い頂けましたら幸いです。 (1月30日 0時) (レス) id: 348ed03cac (このIDを非表示/違反報告)
ごましお(プロフ) - 前回書かれてたときからこの話が大好きだったので再掲してくださって本当に嬉しいです(T-T)これからも楽しみにしてます…! (1月24日 10時) (レス) @page22 id: 4d6203abd5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鳰 | 作成日時:2023年12月17日 15時