止まない雨はないから。[青] -2nd- (ページ40)

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85話ページ40

-渡辺side-

滝｢あいつら、9人じゃなきゃ映画出ねぇって直訴しに来やがって。わざわざ頭下げてきてさ。そんなの、無下に出来ないだろ。｣

渡｢っ…！｣

俺が知らない所で、俺の為にメンバーが直談判してた。

そう聞いて芽生えたのは、頭を下げさせて申し訳ない気持ち。

俺一人の都合で延期になんかさせたくない気持ち。

でも、それを上回る程に心に染みる8人の優しさに、謝るのも断るのも違う気がして…

この感情に身を任せれば、戻る場所の暖かさを肌で感じて胸が一杯になって、いつの間にか涙が溢れていた。

渡｢っ…ひｯ…ぅ…ｸﾞｽｯ……ﾊｧ…っ…｣

滝｢あぁ、もう…泣くな。苦しくなるぞ。｣

情けなく声の無い嗚咽を漏らす俺の背中を、そっと摩ってくれる男前な滝沢くん。

お陰で、余り時間がかからず落ち着けて…

俺は頬の水滴を拭いながら、手近の紙とペンをオーバーテーブルごと手繰り寄せる。

そして、小刻みに震える手でボールペンを握り、縮れて汚いながらに文字を書いた。

返事しなきゃ。

伝えなきゃ。

その一心で…この声の代わりに。

焦らず治療に専念する事。

それから、滝沢歌舞伎の撮影延期を認めてくれた事に対する感謝。

そしたら、滝沢くんは静かに首を横に振って言ったんだ。

滝｢感謝する相手は俺じゃないだろ。｣

渡｢っ…？｣

滝｢良いメンバーに恵まれたじゃないか。｣

ﾎﾟﾝｯと頭を撫でられる感覚がして、キョトンとする俺にそう言い残して去っていった背中。

でも、扉を出る間際に僅かに見えた笑顔は…

ここ数年の威厳ある感じが少しだけ抜けた、昔からよく知る"兄貴"みたいな表情だった。

だから、さっきの言葉の真意にも気付いて、直ぐにその為の行動に移す事が出来たのかな。