78話 ページ33
-渡辺side-
電気も点けず薄暗い病室。
手術をして苦しさが和らいだ反面、果てもなく考えてしまう。
今頃は沢山仕事してたのに。
滝沢歌舞伎も稽古中だったのに、なんて。
この部屋と同じ様に、気分もどんどん暗くなって…
それから何より、声が出せない事がショックで堪らないんだ。
喉の穴を空気が通る音がして、その度に耳を塞ぎたくなって息を止めたくなる。
でも、それはこの状態じゃ不可能だし、仕方なく横を向いて片耳を枕に押し付けるしかない。
渡｢っ…｣
聞きたくない音がくぐもって聞こえなくなるのと同時に、隣で話し掛けてくれる声も遠ざかる。
パパは仕事があるからって明け方頃に家に戻ったから、今はママと2人きり。
ベッドの傍に座って、未だ高い熱が続く俺の額に浮かぶ汗を拭いながら背中を摩ってくれて…
明るく励ます様に、俺の代わりによく喋る。
俺のせいで余計な気を使わせてるなってのは分かるのに、今更素直になるのも難しくて…
彷徨う視線が逃げたのは、暗くてどんよりとした窓の外。
未だ雨が降り、空は分厚い雲に覆われてる。
"まるで俺の心みたいだ"とかポエマーチックに変な思考になったのは、高すぎる熱で頭がちょっとショートしてるのかな。
そう言えば…今日はずーっと横になって、体内に入り続ける点滴の雫や外の嫌な天気を見てるだけだった。
唯一立って体を動かしたのはトイレに行く時くらいで、それもﾌﾗﾌﾗする体をママに支えてもらってた。
そんないつもと違う一日に、昼過ぎには気が可笑しくなりそうだったけど…
起き上がれないんだから仕方がないだろって自分で自分を窘めたのには、少し虚しさも感じた気がする。
こんなの、無理をし過ぎた自分のせい。
正しく、因果応報だって言うのに。
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作者名：和音
| 作成日時：2020年11月24日 18時
