人に成れない少女はそれでも人に成りたいようです【刀剣乱舞】

１１０ ページ13

禊萩に告げられた瞬間、Aは走っていた。


廊下が永遠に続くのではないかと思うほどに長く、止まっているのではないかと思うほどに体が動かないように感じていた。


すぐに苦しくなる息が悔しく、思うように動かない足がもどかしかった。


一刻も早く戻らなければならない。


そうすれば助けられる。


私の力さえあれば。


自分がどれほど強い力を持っているのか、それは、これまでの扱いでさんざん理解させられてきた。


取り残された刀剣男士を助けに行き、戻った実績もある。


Aは、己の力を過信しているわけではない。


だが、自分であれば、敵をすべて倒すことができると信じていた。


広場を駆け抜け、門の前にたどり着く。


自分の本丸につなげ、胸元から護符を取り出しながらその中へと駆け込んだ。


本丸内へ入った瞬間に、目の前に時間遡行軍が現れ、とっさに手に持った護符を張り付けた。


「主！？」


消滅と同時に、その向こうに立っていた加州が目を見開いた。


かなり長く戦っているのか、それとも不意を突かれた襲撃だったからなのか。


一番強いはずの加州も、中傷のけがを負っていた。


式を取り出し、加州に向かって飛ばす。


「ありがとう、主。でも、どうしてここに？」


あたりを見回し、敵がいないことを確認しながら駆け寄ってくる加州。


「命令が下った。

みんなを助けるように」


そういうと、加州は嬉しそうな顔をしたが、すぐに悔しそうな顔をした。


「あいつら、こんな時だけ主の力を利用して……」


「だが、そのおかげで助けに来ることができた。

状況は？」


「みんな散り散りになって戦ってる。

戦況は押され気味かな」


「そうか」


Aが頷きながら、近寄ってきた時間遡行軍を護符を飛ばして消した。


「一旦立て直そう。

私が敵を倒していく。

加州は、散っているみんなを本丸内に集めてくれ」


袂から大量に式を取り出し、加州に渡す。


「これ自体に力が込められているから、張り付けるだけでいい。

けがの具合にかかわらず、皆を手入れしてほしい」


「でも、主が……」


「私の力があれば、どうにでもなる」


そう言って笑い、加州を置いて走り出した。

１１１→←１０９

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す