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泣いたのは、Aちゃんじゃなくて俺のせい。
俺があの人に重ねてたから。
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俺は人生の中で、彼女と呼べる女性は一人しかいなかった。
その人は、1年の時、サッカーサークルに入った時にいたマネージャーの3年の先輩。
桜井光さん。
光は人見知りの俺によく話しかけてくれて、最初は距離があったんだけどサークルじゃなくても話すようになって、だんだん仲良くなって。
気づいたらいつも一緒にいて、毎日がすごく楽しかった。
それである時に2人で出かけたんだけど、その時に衝撃の事が分かった。
光は役者を目指してるってこと。
それで俺も役者目指してるんですって言ったら意気投合して、付き合った。
告白は俺からだった。
向こうは俺の事、かわいい弟とでも思ってたのかなぁと思う。
俺は初めての恋人で、向こうは年上だからリードも何も光がすべてやってくれた。
悔しかったけど、いつもいいよって笑ってくれる光が好きだったんだ。
役者の夢に向けて2人でオーディション受けたり、一緒に住んだり、お互い作品に出れることになったら大喜びして美味しいご飯食べに行ったりした。
それで俺が3年の夏の時。
光が大きい映画に出れることになった。
ただ幸せだった。
クーラーもあまり効いてない暑い部屋で光を抱きしめた。
幸せだった。
あの日まで。
映画が上映される春を待っていた。
でも2人で迎えられることは無かった。
桜の蕾ができてきた頃、俺が家で1人スマホでオーディションを探している時だった。
突然連絡が来て、電話に出ると、思わず固まった。
光が、交通事故にあった。
よく分からないまま病院に向かった。
でも、間に合わなかった。
光の命は、もうそこになかった。
その瞬間、俺は崩れ落ちることしか出来なくて、その場で誰にも聞かれないように静かに泣いた。
悔しくて、苦しくて、自分が惨めで、もうどうしたらいいかわからなくて。
ただ毎日辛かった。
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作者名:菜緒 | 作成日時:2022年1月4日 18時