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『面白かったね。』
「……うん。」
『さっき見たのと全然違うから、楽しかった。』
そう言ったけど、ほぼ記憶なし。
だって隣にいる海斗くんが気になって見て、横顔がすごく綺麗で見とれてしまって、
でも目が合いそうになってまたスクリーンに視線を戻して、の繰り返し。
見たかったはずの映画の内容は、3割も頭に入っていなかった。
手元にあったお菓子とお酒は空になっている。
時間は終電へジリジリと近づいている。
もう帰る時間、か。
でもなかなか言い出しにくくて、海斗くんの目を何となく見てみた。
すると彼の惹き込まれる目は、私が彼を見る前からこっちを向いてたらしく、目が合う。
『……この間、何言おうとしてたの?』
「あぁ、花火の時?」
『気になる。』
あの時もこうやって目が合って。
でも、何でもない、そう返された。
私にはそんな風に見えなかった。
「……俺が、何やっても嫌いになんない?」
『え?
それは…………っ、!』
当たり前だよ、嫌いになんてならない。
そう答えようと思っていたのに、手首を痛いくらいに掴まれて、気づいたら海斗くんが上から被さるようになっていた。
頭の中は、海斗くんのことでいっぱいで身動きが出来ない。
「……嫌いにならないでよ。」
セットしていない前髪から覗く瞳は、今までに見たことないほど悲しく、涙が混じっているように思えた。
これほど弱くて儚い海斗くんは見たことがなくて、今私がこの腕を振りほどいてしまったら壊れてしまうんじゃなかいか、と思うほどだった。
私は海斗くんのその言葉に返すことができず、息が上がるばかり。
もうどうしたらいいか分からない。
その瞬間、海斗くんの顔が近づいていて、私の体は反射的に目を閉じた。
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作者名:菜緒 | 作成日時:2022年1月4日 18時