傷を埋めるもの。 ページ10
・
まだ明るくて、描かれたような白い雲が浮かぶ空。
やけに綺麗に見える。
みんなが帰って、教室にはあと数人。
ソワソワして、もう1回ロッカーの中見てこようかな…なんて思ってたら、入口のドアから顔を覗かせた吉澤先輩。
急いで荷物を持ってそばに行くと、夏目いたってわざわざ名前を呼んでくれた。
夏目って苗字も悪くない。
図書館まで歩く時はいつも通りに話していた。
吉澤先輩にはすごく話しやすくて、割となんでも相談してしまう。
私のくだらない話にちゃんと笑って聞いてくれる。
だから海斗のことも話しちゃったんだけど……
…あはは……。
『どこ座ります？』
「そこの棚の向こう側の席、穴場だよ。」
『へぇ、よく知ってますね。』
図書館の奥の方に進んでいくと、本が並んだ棚の向こうには、誰も座ってない大きめの丸いテーブルが1つ。
さすが吉澤先輩。
受験生だから穴場も知ってる。
吉澤先輩が先に座って、座る場所に戸惑う。
真横は近いから集中力切らせちゃうかもしれないし、真正面も顔上げたら私の顔があるとか嫌かもしれない…と考えた後、吉澤先輩の斜め前くらいの席に座った。
「ふはは、なんか微妙に遠くない？」
『え……。』
「俺、教えられる所もあると思うけど。」
『…じゃあ。』
荷物を持って吉澤先輩の隣の席に座った。
なんだろう、急に同い年で隣の席になったみたいでちょっと緊張する。
でも吉澤先輩に教えて貰えるっていう特典付きだし、いつもより頑張れそう。
筆箱を出して、テキストを開いた。
図書館の静けさで勉強がかなり進む。
気付けば海斗と勉強会をやる時よりも頭に入ってて、びっくりした。
でも吉澤先輩に教えてもらうことは無かった。
難しい問題がたまたまなくて。
なんだよ、なんでも出来るんじゃんって少し拗ねたみたいに吉澤先輩は言ってたけど、そんなの吉澤先輩だってそうですよ。
駅まで歩くと、吉澤先輩と帰る方向が同じことが発覚した。
しかも駅も2駅違うだけ。
朝とか同じ電車乗ってたのかもしれない。
『最近日が落ちるの遅いですよね。』
「なんか夏って感じだな。」
ホームから覗く空は、6時半とは思えないほどまだ明るかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 152人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：菜緒 | 作成日時：2022年4月30日 17時
