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「今日はお出かけ？」
玄関で身だしなみの最終チェックをしてると、お母さんそう言われた。
そんな軽いものじゃないけど……と思って考えていると、お母さんはふふっと笑った。
「いつも忙しいんだから、今日くらい楽しんできなさい。
難しいこと考えずに。」
お母さんの笑顔を見て、ずっと重くのしかかっていた何かが軽くなった気がした。
確かにこの後何が起こるか分からない。
吉澤先輩も言ってたみたいに、私も海斗を信じてみようと思った。
それに今日一日は海斗と楽しみたい。
『うん、ありがとう。』
「行ってらっしゃい。」
『行ってきます！』
バスに乗って駅に向かうと人がたくさんいて、その中に時計台の前でキョロキョロと見回してる人が1人。
「あ、A。」
『お待たせ。』
手を振るのも違うかな、と思って今日は普通に言ってみた。
海斗は珍しく黙っていた。
何か言いづらそうな表情をして、口を噤んでいる。
『えっと、駅からどっか行くの？』
「うん。
切符買ったから、これ。」
300円の電車の切符。
海斗の手の温度で、少し温かい。
先に来て買ってくれたんだ。
「行こ。」
先に歩き始めた海斗に行き先を聞くことも無く、少し後ろで一緒に歩いた。
暑いホームから涼しい電車に逃げるように乗った。
まだ行先は分からなくて、海斗の隣に腰を下ろす。
日差しは強くて、外は夏らしさ全開。
横に座る海斗の格好も夏らしくてかっこいい。
そういえば海斗ってオシャレな人だった。
制服はちゃんと着るタイプだから、たまに見る私服はキュンとする。
それに対して私は可愛くもないし、特別オシャレな訳でもない。
今日だって頑張って一応可愛くしてきたつもりだ。
だけど反応はなし。
見てさえいなかった。
「ここ、降りるとこ。」
『…分かった。』
停車駅のアナウンスが鳴ったあと、海斗にそう言われる。
普段あんまり降りない駅だ。
何があるかもよく分からなくて、ドキドキで胸がいっぱいだった。
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作者名：菜緒 | 作成日時：2022年4月30日 17時
