gret ページ5
「よかった……!! 目、覚ましたんだな。ったく、どんだけ心配したと思って——-」
走ってきたのだろうか、息を少し切らせながら焦燥した顔で見つめる男。
派手な髪色に沢山開いたピアス。
病室に入るなりずらされたマスクの下の口元には、何事かと問い詰めたくなる傷跡。
……こんなまさに“悪”を体現したような男と知り合いな筈がない。
AAは暫定“友達いないぼっち”なわけで、こんな明らかにそっち系の方と関わりのあるわけがない。
まあ、記憶がないのだから、彼と本当に知り合いなのか確かめる術もなく。
「……すみません。どちら様ですか」
できることならこれぽっきりで縁を切って欲しいという微かな意思も込めて、なるべく冷たく言ってあげた。
さっきのさっきに、新たな人生を歩もうと思ってたんだもの。
こいつと関わってもろくな事がなさそうなわけで。
「———……は?」
逡巡なのだろうか。一瞬だけ不自然なほどに不気味な沈黙が流れた後、やっと意識を取り戻したように、男は呆気に取られた声で沈黙を破った。
「俺だよ、A」
「ちょっと……わからないです」
やっと始めて来た見舞いの来客の男なので、私とどんな関係なのかは多少気にはなった。
だけどそれ以上に、私は第二の人生を清らかにスタートさせたいという意志がよっぽど強いのか、こいつと関わってはならない、という警報が全身で鳴り響いている気さえした。
男は依然として呆気に取られた表情を顔面に貼り付けたまま、私から目を逸らす事なく衝撃の事実を口にした。
「本当に、覚えてないのか……? お前の恋人の、三途春千夜だ」
「……は?」
今度は私の方が間抜けな声をあげてしまった。
だって、そんな……。目の前の人間から一番聞きたくなかった言葉なのに。
事故に遭った時にスマホも壊れてしまったから、これが真実なのかどうかも確かめる術はない。
三途春千夜と名乗った男は、少し寂しそうに私の目を見つめていた。
あまりの急なストレス的な状況に、耳鳴りがするような錯覚を覚える。
それでも何とかこの三途春千夜という男を追い返して、きっぱり縁を切ろうと頭の中でベストな返答を模索した。
———この時の私は、知らなかった。
地獄への扉は、既にゆっくりと音を立てて開いていたのを。
117人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぱーぷる姫(プロフ) - こういうの普段は読まないですけど、タイトルに惹かれました。読んで正解でした。鳥肌です。ありがとうございました (9月30日 18時) (レス) @page43 id: 4d7ac923b9 (このIDを非表示/違反報告)
いちご丸 - 闇深いけど好きです笑 (9月2日 0時) (レス) @page44 id: 7e45dba670 (このIDを非表示/違反報告)
海 - やばい、ちょー好き、ストーカー系好きなんですよね笑 (6月4日 9時) (レス) @page45 id: 465dec3a48 (このIDを非表示/違反報告)
華夜(プロフ) - 衝撃展開...... (2023年3月28日 11時) (レス) @page34 id: e1dc7047a1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:梅累 | 作成日時:2023年1月9日 11時