alize ページ26
転がり込むように家の中に入って、肩で息をしながら三途さんと顔を見合わせる。
お互いびしょ濡れになって、服はもちろん髪の毛からもぽたぽたと雫が垂れ落ちて、玄関に水溜りを使った。
「……派手に濡れましたね」
「誰のせいだと思ってんだよ」
「でも、楽しかったですよ」
笑みを浮かべる私とは対照的に、三途さんは半ば呆れたように息を吐いた。
「タオル持ってくるから、そこで待ってろ」
三途さんは上着を脱いで、手近なハンガーにかける。
上着の下まで濡れているから、今更脱いだところで変わらないような気もしたが、それもこれも全部私のせいなので特に言及することもなく。
靴も綺麗に揃えて、なるべく床を濡らさないようにタオルを取りに歩いていく。
私はその後ろ姿を、なんとはなしに見つめていた。
口調とは裏腹に綺麗好きなところ、
こんな私の馬鹿げた行動にも付き合ってくれるところ、
文句を言いつつも、私のことを一番に考えてくれるところ。
「……好き、だなぁ……」
と、気づくとそんなことを思っていた自分に一番驚いて、思わずはたと口元を抑える。
私、今なんて……？
口に出してはいなかっただろうか。
聞こえてはいなかっただろうか。
そんな焦燥が頭の中を駆け回るのと同時に、えもいわない幸福感も感じている自分がいた。
……そうか、私。とっくに三途さんのこと、好きになってたんだ。
ぶるっ、と全身が震えた。
雨に打たれて冷えたからなのだろうか。
指先から体温が抜け落ちて行くような感覚に襲われて、寒気を振り払うように頭を振った。
三途さんが戻ってくるのが、タオルを取りに行くだけにしては少々遅いようにすら感じてきて、これが待ち遠しいという感情なのかすらも整理がつかぬまま、私は無意識に水を滴らせる髪の毛を絞った。
好きだと認めると何だか心が軽くなって、同時に私の心の中の何かも強くなって、安堵感と緊迫感という、一見矛盾した感情ですら調和し始める。
記憶がない私にとって、これは初恋だ。
……よりにもよって彼を好きになるつもりなんて、微塵もなかったのに。
ほとぼりが冷めたら、ここから去ろうと思ってたのに。
……そもそも彼と出会ってなければ、今頃前の自分なんか気にしないで、新たな人生を歩んでたはずなのに。
思えば出会った時からずっと、彼には私の未来図を崩されてばかりだ。
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ぱーぷる姫(プロフ) - こういうの普段は読まないですけど、タイトルに惹かれました。読んで正解でした。鳥肌です。ありがとうございました (9月30日 18時) (
レス) @page43 id: 4d7ac923b9 (このIDを非表示/違反報告)
いちご丸 - 闇深いけど好きです笑 (9月2日 0時) (レス) @page44 id: 7e45dba670 (このIDを非表示/違反報告)
海 - やばい、ちょー好き、ストーカー系好きなんですよね笑 (6月4日 9時) (レス) @page45 id: 465dec3a48 (このIDを非表示/違反報告)
華夜(プロフ) - 衝撃展開...... (2023年3月28日 11時) (レス) @page34 id: e1dc7047a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：梅累 | 作成日時：2023年1月9日 11時
