treat ページ25
「チッ……ンだよこの雨。降りすぎだろ」
「さ、三途さん……⁉︎」
スーツの裾を濡らした三途さんが、イラついた様子で傘を閉じる。
何故こんなとこに、という私の疑問が顔に出ていたのだろうか、私が口を開く前に彼は面倒くさそうに言った。
「午後から急な雨だっつってたから、迎えに来たんだよ。お前傘持って行ってなかっただろ?」
そう言って三途さんはもう一本持っていた傘を私に差し出す。
なんて良い人なんだ……。スパダリか……?
この状況においては、三途さんが救世主のようにすら思えて、思わず感涙に溢れそうになる。
「天気予報もちゃんと予測しとけやクソが……」
と、その救世主は今度は天気予報にケチをつけ始めたわけだけど。
「さあ帰るぞ」
と、三途さんから傘を受け取ろうとして、ふとその手を止める。
「この雨の中をですか……?」
「……」
「てっきり車で来たのかと……」
「……こんなに降られるとは思ってなかったんだよ」
珍しくバツが悪そうに目を逸らす三途さんの様子に思わず笑ってしまいそうだった。
確かにここは家からもそんなに離れてないし、彼が家を出た時には小雨程度だったのかもしれない。
「っ……ふふ」
「あ? 何笑ってんだテメェ」
「ごめんなさい……っふふ、面白くて」
私は笑いを堪えきれなくてくつくつと肩を震わせてしまう。
何やかんや言いながらも、こうして三途さんが迎えに来てくれたことへの嬉しさと、そんな彼の想定外のことに焦る様子が相まって、笑みが溢れてしまう。
私が堪えきれずに笑っている間、彼本人はムスッとして不機嫌そうな顔をしていたわけだけど。
「大雨の中迎えに来たのはちょっと面白かったです」
「テメェ後で覚えとけよ……」
不本意そうに顔を歪める三途さんとは裏腹に、私は嘆息した後、悪戯を思いついた子供のような笑みを向けた。
「三途さん、走りましょう」
「は?」
呆気に取られる彼を残して、私は屋根の下から身を投げ出す。
途端に身体中に叩きつける雨。
スーツがびしょ濡れになるのには、数十秒もかからなかった。
持っていた鞄で頭を覆いながら全速力で街を走り抜ける。
こんなに走ったのかいつぶりだろうか。
まあ覚えてないんだけど!
「おいAっ! 正気か⁉︎」
「ひゃーっ! すっごい雨ですね‼︎」
楽しくって可笑しくって、笑いが絶えず溢れてくる。
二人してびしょ濡れになりながら走って、私の笑い声は雨に混じって消えていった。
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ぱーぷる姫(プロフ) - こういうの普段は読まないですけど、タイトルに惹かれました。読んで正解でした。鳥肌です。ありがとうございました (9月30日 18時) (レス) @page43 id: 4d7ac923b9 (このIDを非表示/違反報告)
いちご丸 - 闇深いけど好きです笑 (9月2日 0時) (レス) @page44 id: 7e45dba670 (このIDを非表示/違反報告)
海 - やばい、ちょー好き、ストーカー系好きなんですよね笑 (6月4日 9時) (レス) @page45 id: 465dec3a48 (このIDを非表示/違反報告)
華夜(プロフ) - 衝撃展開...... (2023年3月28日 11時) (レス) @page34 id: e1dc7047a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梅累 | 作成日時:2023年1月9日 11時